【シュートボクシング】高橋藍 選手「女性に試合を観てもらったとき、もう観たくないという人は1人もいなかった」
■2015年10月23日(金曜日18:00~)
シーザージム浅草:https://www.facebook.com/CaesargymAsakusa/
(場所:東京都台東区花川戸2丁目2-8)
シュートボクシング (Shoot Boxing) という競技をご存知だろうか。シュートボクシングとは寝技のない総合格闘技であり、拳の打撃はもちろんキックボクシングの脚の打撃に加え、投げ技、関節技、絞め技を使うことが出来る競技である。創始者であるシーザー武志氏の考案により1985年に誕生、今年で創設30周年になる。
シュートボクシングの大きな特徴の1つに、試合着のロングスパッツがある。これは一般的なボクシングやキックボクシングのようなパンツスタイルの試合着ではなく、腰から足首までをタイトに覆うタイプの試合着。このロングスパッツを考案した創始者シーザー武志氏は「ロングスパッツを履くと脚のシルエットが美しく見える。逆に言えば、筋肉のついていない脚だとロングスパッツが美しく見えない」と過去のインタビュー等でコメントしていたと言われている。この筋肉を意識したシュートボクシングに筋肉バカとしては興味が沸かない訳がない。
そんなある日、チャンスが到来する。現役のプロのシュートボクサー高橋 藍(たかはし あい)選手に筋肉バカの取材を受けて頂ける事になったのだ。高橋選手はシーザージムに所属している選手であり、2011年に行われた【SB日本レディース王座決定戦】にて王座を獲得している。シュートボクシングのプロの世界で活躍する高橋選手に、その魅力や実際に体験してきた事について話を伺うべく、さっそく現地へと向かった。
(高橋藍 選手 シーザージム所属)
ジムに到着すると、すでに練習している会員が沢山いた。年齢層は幅広く、男性も女性もいる。サンドバックやウェイトトレーニング用のマシンもあり、様々なトレーニングがここで行われている事がひと目で分かった。そしてその中で、他の会員と同じように練習を積んできた高橋藍選手。昼は出版社で働き、夜は練習する日々。そしてシュートボクシングのプロ選手として、リングの上で戦っている。
実際に試合で高橋選手はロングスパッツを履いてる。挨拶も早々にその辺りついて話を伺った。
■ロングスパッツについて
「最初デビューする前はロングスパッツを履くことに抵抗がありました、女性ですし。でも今では、女性の方がよりロングスパッツがカッコよく見えると思っています。ヒーローアニメのヒロインのような感じですね。自分もシュートボクシングをやりはじめてキックパンツよりこっちのほうを選んで良かったです。上も下もユニフォームがあるのでトータルでビジュアルのバランスがとりやすいです」
「ロングスパッツはお腹がボヨッとしているとお腹の肉が隠し切れず乗ってしまいます。キックパンツだと隠せるというわけではありませんが、ロングスパッツは履くと脚が綺麗に見えるのでお腹も締まってないとさまにならない。これは格闘家としては当たり前なんですが、それをビジュアルでも競技でも際立たせて魅せる事ができます」
ロングスパッツは生地の面積量から選手の個性をハッキリと出しやすい。高橋選手の履くロングスパッツにおいて何かテーマやデザインなど、こだわりはあるのだろうか。
「最初のイメージカラーは青でしたが、今はスパイダーマンの様なビシッとカッコいい黒ベースに赤です。デビューの頃などは、かわいらしい、女性らしいものも考えていましたが、今は強そうな、ふてぶてしい、恐そうなキャラの方が好きです(笑)」
■シュートボクシングを始めるきっかけについて
「最初はK-1グランプリがとにかく好きでした。レイ・セフォー選手が好きで、勝ちに行くより倒しにいく姿勢が特にカッコよかったです。ヒョイヒョイ動くより、真っ向勝負に行く選手がカッコいいですね。次にK-1 MAXでのブアカーオ選手の蹴りを見て、強さはもちろんですがそれ以上に美しさを感じました。いろんな競技がありますが、美しさというのは格闘技に一番強く感じています。肉体の動きの美しさには昔から魅かれるものがあったんですが、シュートボクシングの後楽園の試合を観にいったときに、真っ向勝負の試合を観て、その会場の熱気も凄く、これをやりたい、と思いました。それがきっかけです。当時はとても選手としてやれるとは思っていなかったので、フィットネスとしてシュートボクシングをはじめました」
■プロデビューを意識しはじめた「今しか出来ない」
「プロを意識しはじめたのは、始めてから5年くらいして、アマチュアで10戦してないくらいのときです。広報からプロデビューを薦められました。もともとプロは目指していなかったし、仕事の方が本格的に始まったのでシュートボクシングは辞めようとも思っていました。でもその時に「今しか出来ないのにね」と広報に言われ、どうもそれが自分の中で引っかかったんです。1週間ほど考えて両親に相談。母親は嫌がっていました。でも父親から「でもやってみたいんでしょ」と後押しをもらいました。それからは一番のファンでいてくれています」
■ジムの方たちが応援してくれた
「ジムの方たちが凄く応援してくれました。普段あまり喋ったことなかった人も、試合後、会った時に「頑張ったね!」と言ってくれて見ててくれたんだと思いました。凄く嬉しかったです。その嬉しさは今でも変わらないです。応援を強く感じたのは、プロの最初の2年頃よりも、チャンピオンになって、負けてから落ち込み、嫌々になった時。その時に自分の殻を破り、アマチュアの時よりも応援してくれる人の存在に気づけるようになり、自分からも耳を傾けれるようになれました。そこから更に自分も変わったと思います。試合会場で「藍ちゃんの声援が一番凄い」と言ってもらえることもあり、本当に嬉しいですね」
普段仕事をフルでしながら練習する事、しかもプロの世界で勝つ練習をするとなれば、その大変さや難しさは数段上がるはず。
どんな風に両立してきたのだろうか。
「会社の方が理解してくれたので、スケジュールは度々助けられました。しかしどうしても調整がダメなとき、夜、終電過ぎても終わらない、練習もしなくてはいけないという、両方の気持ちでパニックになる時もありました。タイムマネジメントは大変だったと思います。練習していてもあれどうなったかなと、気になって、気持ちの切り替えが大変で。逆に良かったことは、試合だけだと、出会えなかった人、応援してもらえなかった人に出会えた事です。自分の考え方も広がりました」
高橋選手はブログ等で「カッコいい」という言葉をよく使っている。「カッコいい」とはどんな状態の事なのだろうか。
■高橋選手の指す「カッコいい」とは何か
「“挑む”というキーワードが自分の中にあり、何かに挑んでいる人はカッコいいと思っています。それはちっちゃい事でもいいんです。エスカレーターと階段があったときに階段を選ぶような。アマチュア時代には格闘技をしていることを周りに言えない時期がありました。でもジムの人からは挑戦することに対し、ただただ応援してくれたり、ただただ頑張ってと言ってくれたり支えてくれました。私もカッコいい人、挑む人を応援していきたいと思っています」
シュートボクシングの経験の中で、何か気づいた事はありますか? と尋ねると、高橋選手からとても重要で面白いエピソードが返ってきた。
■格闘技は不器用な人ほど伸びますね
「基本的にスポーツは好きでした、バスケも走るのもそこそこできたんです。それなのに格闘技をやってみたら不器用だといわれて、そんな訳はないと……(苦笑)。何かに本気になったとき、一生懸命になればなるほど、理想とは違うものがいっぱい見えてくるという事、今までは本気ではなかったんだな、という事に気付けました。格闘技は不器用な人ほど伸びますね。センスが良い人、腕っ節が強くて俺プロになりたいんです! という人よりも不器用な人が残っている気がします。スポーツが得意だった人ばかりではなく、自分に打ち勝ちたいと強く思っている人とか、裏の方でコツコツ練習を重ねている人とか。人間ってそうそう変われないと思っていましたが、そうではないということを目の当たりにしています。どんな人にも可能性があるなと。そこが気付けたことです」
■女性で試合を観てもらったとき、もう観たくないという人は1人もいなかった
「試合は特に女性に観てもらいたいです。私が女性というのもありますが、格闘技って恐いとか苦手という人も多いのですが、格闘技に興味がないとか、むしろ嫌いと言っていた女性に自分の試合を観てもらったとき、もう観たくないという人は1人もいなかったんです。男性では、痛そうで藍ちゃんが殴られているのを観てられない、という人はいました。男性は優しいんですね。女性が頑張っている姿っていうのを同姓として女性に観てもらいたいです。選手とお客さんでエネルギーを交換するような。厚かましいかもしれないですが、もし明日からまた頑張ろうと思ってもらえたら最高ですね。表面的じゃない、言葉じゃないものがあり、それは映像とかではなく、実際の試合を生で観てもらいたいです」
■シュートボクシングは、どんな人に体験してもらいたいか
「大きく分けると2つあります。1つがストレスを抱えている人。もう1つが凄くがんばっている人。両極端ですがストレスを抱えている人はストレスを発散できて、頑張っている人は余計に頑張れます。女性は打撃する経験がなかなかないと思いますが、拳を打ち付けると、感情を打ち付けるという効果があるので、女性の方が、シュートボクシングの良い効果を実感しやすいと思います。スッキリするので、終わった後に女性の方が凄くいい顔をしていますね。「元気になりました!」と言ってくれるので、即効性も高いと思います」
最後に高橋選手に、今後の目標を伺った。
「12月1日の試合が決まりまして、自分にとっては大一番になると思います。キッチリ倒しにいくところが今の大きな目標です。もうひとつが、自分もせっかくシュートボクシングを通して経験を重ねてきたので、フィットネスとは違う、格闘技としての視点をちゃんと入れた、女性のトータルプロデュースのようなことも今後やっていきたいです。身体のことはもちろん、精神的なこと、食事、睡眠のことなども含めて。減量など辛い思いもしましたし、経験値として活かして何かプログラムを作っていければと思っています」
高橋選手の取材を通して、同姓である女性への愛情、思いやりをとても強く感じた。シュートボクシングで筋肉を動かす事は女性にとっても、とても価値のある事。高橋選手はリングでプロとして戦い、それに気付き、多くの女性に伝えている。筋肉バカはそのカッコよさに対し震えていた。「あ… ありがとうござました(震え声)」 高橋選手とシーザージム浅草の皆さんにお礼を告げ、ロングスパッツを探し求めショッピング街へと猛然と向かった。
(文・遠藤大次郎 写真・筋肉バカドットコム)