Mr.シュートボクシング・宍戸大樹 。19年間の集大成『ヒジありルール』の理由、現役最後の試合に向けて語る想い

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■2016年2月17日(木曜日16:00~)

シーザージム浅草

(場所:東京都台東区花川戸2丁目2-8)

 2016年4月3日(日)、20才の時から約19年間、シュートボクシング一筋で戦い続けた格闘家「宍戸大樹」が現役最後となる試合に挑む。2月13日に開催された『SHOOT BOXING 2016 act.1』。その日の会場となっていた後楽園ホールに、シュートボクシング東洋太平洋ウェルター級王者の宍戸選手がスーツ姿で登場。4月3日に行われるシリーズ第2戦『SHOOT BOXING 2016 act.2』での試合を最後に現役を引退すると発表した。

 

 さらに、現役最後となる試合は、ヒジによる攻撃を認めた旧シュートボクシングルールを採用する事が決定。ヒジ打ちは攻撃力が高く、危険度が上がる。「ガチだ……。」筋肉バカはただならぬ気配を感じていた。何故、危険度がより一層増す『ヒジありルール』で戦うことになったのか。そして純粋に、シュートボクシングの世界で19年間トレーニングを重ね、81戦を戦ってきた漢は、今、何を考え感じているのか。所属するシーザージムへ取材を申し入れ、浅草へと向かった。

 

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宍戸大樹(ししど ひろき)生年月日: 1977年3月16日 (39歳)。福島県出身。

シーザージム所属。初代シュートボクシング日本シーガル級(現スーパーライト級)、初代シュートボクシング日本ウェルター級、初代シュートボクシング東洋太平洋ウェルター級王者。入場曲は少林サッカーのテーマ。

 

 ジムに着くと宍戸選手に会うことが出来た。筋肉バカは尋ねた。最後の試合に向けて、宍戸選手は今、どのような気持ちなのか。

 

 19年やってきて、これで本当に最後なんだな

 「19年やってきて、これで本当に最後なんだなとふとしたことで感じたりするのですが、時間が過ぎるのがもったいない。この時間を大切にしたい。と考えています。感傷にふけっているわけではないですが、しんどい練習など、今までずっとやってきたことを物思いにふけながら、日々練習している感じがします。やっぱり考え深いものがあります。緊張感、ドキドキ感、ただ追い込むのとは違うもの。これが最後の試合だからという、あらかじめ決まっているものがあるからだと思います。今は、時間を過ぎるのを惜しみながら練習しているような感覚です」(宍戸選手)

 

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■シュートボクシングを始めた理由

 「武道に興味を持ったきっかけは、ブルース・リー、ジャッキー・チェンというアクションスターの姿を見たことです。男ですからそういうものに純粋に興味を持ちました。小1から始めて高校を卒業後、四国の香川県にある少林寺拳法の専門学校に入学するのですが、血気盛んな仲間たちと格闘技の話をしている中で、いつか華の都・東京に出て、自分がどれくらい強いのか試したくなりました。当時、格闘技界はK-1などが盛り上がりはじめていたのですが、その中で、僕にはシュートボクシングが一番魅力的に感じられ「よし、自分の力でどれだけ上にいけるか試してみよう」と、20才からシュートボクシングを始めて39才、あっという間でした」(宍戸選手)

 

19年間も厳しい現役選手を続けられた秘訣はなんだったのか。

■“体を痛めつけるのが前提”という世界

 「いろんな人のサポートがあったので、これだけ長く続けることができました。格闘技は個人競技ですし、リングに上がれば誰も助けてくれない。しかし、沢山の助け、支えがなればリングには上がる事ができません。今は家庭をもっているし、家族の理解という助けもあります。ある種、道楽に近いじゃないですか(笑)。職業格闘家と胸を張って言える人もいるのでしょうけど、“体を痛めつけるのが前提”という世界ですから、家族も周りの人も心配でしょうし。本当にありがたいことだなと思います。今だからこそ強く感じます」(宍戸選手)

 

過去、満足に練習できなかったと語る時期があるが、何があったのか 。

■カッコいい言い方をすれば長年体を酷使してきた

 「練習が満足にできなかった時はケガですね。カッコいい言い方をすれば長年体を酷使してきたので、故障、ケガもしやすい状態になります。ケガをする事で練習を満足に出来ない時は不安になりますし、モチベーションにも影響します。今だから言えることですが、正直、練習をこれだけやらなければという課題があっても、十分に準備ができなかった時はありました。その時、試合で助けられたのは技術の引き出しやキャリアです。自虐的に「貯金(積み重ねてきた技術や経験)を切り崩して戦っている」などと言っていた時もありました」(宍戸選手)

 

引退を決めたポイントはなんなのか。

■このメニューを前は出来たのに、なんて状態ではいけない

 「徐々に若い子たちと同じ練習をこなせなくなってきました。それができなくなってきたらダメだなと自分で考えています。シーザージムでは合同練習としてサーキットトレーニングなどをよくやるのですが、故障したりすると外で違うメニューをやったりとなります。そうなると、いつまでも現場にいてはいけないな、ピリオドを打たなければと感じました。1年に1回など、試合間隔をあけ、現役を続けるだけならばできるかもしれませんが、試合をコンスタントにこなして感覚を磨いて、勝てないだろうと思われる強い相手をとやるからこそ盛り上がるんです。このメニューを前は出来たのに、なんて状態ではいけない。シビアな話です」(宍戸選手)

 

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やはり、相当ハードな練習をしてきたのだろうか。

■20~30才までバカみたいに苦しい練習をやらされていた

 「そうですね。20~30才までバカみたいに苦しい練習をやらされていました。自主的な部分もありますが、やらされるくらいのほうがいい。「自分で練習やっています!」と言っても甘かったりすることはあるはずです。だから厳しい絶対的な指導者がいて、引っ張ってもらう方が自分の性分には合っていました。最初の頃に厳しい練習をさせてもらったおかげで、今があります」(宍戸選手)

 

■行ける時に行かないと勝てない

 「練習で手を抜いたり、セーブしたり次の練習のことを考えながら力を加減したりする。そういう事をやるとダメなんですよね。試合中にそんな事を考えている余裕はないです。行ける時に行かないと勝てない。後輩に対してはバカみたいに練習しろよ、練習バカになれよ、と思います。今の子は頭がいいんですよね。何もしなくても情報が入ってくる時代ですから、オーバーワークすると筋肉の組織が壊れるとか言います」(宍戸選手)

 

■どの時代でも練習をちゃんとやっている選手というのは強い

 「練習をやらなければ勝てないんだ! クリアするしかない! と、練習をちゃんとやっている選手というのはどの時代でも強いですね。練習をセーブすると試合もそうなってしまう。苦しいときに踏ん張れない。シーザージムの練習は厳しいことで本当に有名でした。スタミナではシーザージムにどこも勝てないと言われるほど、スタミナで競り負けるという試合はなかったです。練習で本当にしんどい思いをしているので試合の方がノビノビできていました」(宍戸選手)

 

■減量で苦労した記憶はそんなにない

 「今は10日前くらいになると練習セーブしたりしますが、僕らの時は3日前くらいまで追い込みます。だから減量で苦労した記憶がそんなにありません。勝手に体重が落ちて行ってしまうので。今の子たちが頑張っていないという訳ではないのですが、昔に比べるとノビノビと練習もできているのではないでしょうか。皮肉を込めていうと(笑)」(宍戸選手)

 

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(取材中、キッズクラスの生徒たちが合図を送ると、笑顔でコミュニケーションをする宍戸選手)

 

 試合では普段のユーモラスさを全く見せない宍戸選手。そのギャップは宍戸選手の持つ魅力の1つである。

 ■試合での厳しさを知っているからこそ普段は変える

 「格闘技の世界はシビアですから。勝つか負けるか2分の1。緊張を緩めてしまったら勝敗がひっくり返ります。試合での厳しさを知っているからこそ、普段は変えています。あんまり肩に力を入れてもしかたないという境地ですね。持論ですが、厳しいことをやっている人は優しい気持ちを持ちやすいです。格闘技の世界には優しい人が多い。こういうことをやったら嫌だろうなとか、自分が苦しい思いをしているからこそ、人に優しい気持ちを持つことが出来ると思います」(宍戸選手)

 

何故、現役最後の試合は『ヒジあり』というルールになったのか。

■思い残しの無い形でやりたいという気持ち

 「もともとシュートボクシングは全部ありのルールでした。しかし一時、出血狙い、TKO勝利を狙ってヒジばかり使う選手が頻繁に出来てきたことがあり、シュートボクシングの技術向上のためにヒジは禁止になったのです。しかし最近は総合格闘技UFCなどもヒジを認めていますし、シュートボクシングも立ち技の総合格闘技とうたっている以上、最後はずっと古い時代からやってきた形で、後輩に見せたいです。全てありのルールになったら、これだけ激しい試合になると。お前らがこれから進む世界は、こういうものなんだという事を、自分の試合で見せられたらいいなと思っています」

 

 「最後、ヒジ打ちありでやりたいなと思う気持ちは自分でも持っていましたが、ある日ヒジ打ちの練習していた所を見てくれた会長が「なんだ、ヒジ打ちありでやりたいのか? 最後だしやってみるか!」と言っていただきました。直訴するのは恐れ多いので、そう言っていただけて運が良かったです。やはりヒジ打ちありだと緊張感が違ってきます。パンチやキック、膝蹴りだけでなくそこにヒジがひとつ入ると、距離感が全然変わってきます。ヒジは刃物のようなものでクリーンヒットすれば切れます。血が出てしまえばドクターがストップをかけてしまうこともありますし、より緊張感のある試合になります。最後に全部が認められたルールでやって、思い残しの無い形でやりたいという気持ちです」(宍戸選手)

 

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(シーザージムに通っているキッズたち)

 

 宍戸選手のバックブローは特に芸術性が高い。その誕生秘話を伺った。

■「無茶苦茶やらないと絶対勝てない試合」で生まれたバックブロー

 「2004年、10年以上前のSカップというワールドカップにリザーバーで出た時ですが、当時、練習でミットを持ってもらって何十発、何千発も練習を行っていた訳でありません。試合の中で、思いつきで出した技なんです。本選トーナメントの2回戦に負傷で出られなくなった選手がいて、リザーバーだった僕が繰り上がりで出場しました。しかし、対戦相手と自分の体重が明らかに違いました。向こうは前日計量から体重が戻って当日は80kgくらいで、こっちは70kgくらい。そのくらい体格差があり、これは何でもやらないと勝てないと思いました。無茶苦茶やらないと勝てない試合。とにかく止まらないように手や足を出し続けようと、真正面、横から、回ってキック、意表をついて出たのがバックブローです。大会では最終的に決勝まで行くことができました。その後、どのような角度で出したらヒットしやすいかなど、会長の要点を付いたアドバイスなどを得ながら自分のものにしようと研究をはじめました」(宍戸選手)

 

 ■研究し洗練されたバックブローを繰り出す名試合、2013年・高谷選手との戦い

 「あの時は回りすぎました。高谷選手のプレッシャーがとにかく凄かったです。もともとの若い頃の武勇伝とか聞いていたので、高谷選手のプレッシャーが凄くて僕をそうさせました。やはりバックブローの練習は普段からしておかないと、あのくらい回ったら目は回ると思います。確実に平衡感覚が狂いますね(笑)」(宍戸選手)

(参考:2013年4月20日 (土)東京・後楽園ホール 【シュートボクシング】宍戸が大激闘の末にDREAM王者・高谷に勝つ!

 

宍戸選手の考える面白い試合とは、どのような試合なのか。

■面白い試合は、攻め続けるという姿勢

 「面白い試合とは、逃げとか受けに回らない試合です。逃げに回ってしまったら、ポイントとったから流しているんだなと思われる。それをやってしまったら盛り上がらない。お客さんが見たいのは前に前に出て、勝ち名乗りを上げる試合です。勝つために試合をするのは当たり前なのですが、最後の1秒を切るまで倒しにいく。攻め続けるという姿勢がなければ、「宍戸いけー!!」とはなりません。流す試合なんて誰が見たいんだと思います。逃げてはいけない。防御に徹するとか、逃げの姿勢ではファンの心は掴めないです」(宍戸選手)

 

■最後の試合は、関わってくれたすべての人に来てもらいたい

 「チケットを買って来てくれた人もそうですし、会場に来てくれた人全てに何かを残せるようにしたいです。そして、今までの人生で関わった人。19年間の中で、様々な理由で離れていった人もいますが、そういった人も含めて、自分が青春かけてやってきたこと、関わってくれたすべての人に来てもらいたいなと思います。あなたたちが応援してくれたから、僕はここまで来る事ができました。最後を見てもらいたいと思います」(宍戸選手)

 

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■ファンへのメッセージ

 「4月3日が僕の最後の試合になりますが、今までシュートボクシングで学んだこと、培ってきたことを全て出し切りたいです。そして、シュートボクシングを見て元気が出た、本当に良かったと思ってもらえるような試合にしたいと考えています。みなさん応援宜しくお願いします」(宍戸選手)

 

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 (ジムの壁に貼られていた大会のポスター)

  2016年4月3日、後楽園ホールにて現役最後の試合が行われる。Mr.シュートボクシング・宍戸大樹の雄姿を、しっかりとこの目に焼き付けておきたい。

 

(文・遠藤大次郎 写真・筋肉バカドットコム)

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