【パワーリフティング集中連載】久保 孝史(スポーツ科学研究者)「研究者とパワーリフターが融合していくことで日本のスポーツがもっと強くなる」
インタビュー日時:2017年5月15日(月)
場所:東京都目黒区三田2-1-12 Master Mind
スポーツ科学研究者、久保 孝史さん。大学院でBIG3の研究をしており、その中でも特にスクワットの研究に熱く取り組んでいる。パワーリフティング選手を含むアスリートに対し自らの研究・分析データなどを提供する等、成長が伸び悩む選手の支援を行うとともに、日本に長年根付く間違ったトレーニング方法の改善を目指し、SNS等を通じてより多くの選手のもとに科学的なトレーニングの存在を届けることに日夜尽力している。
■久保孝史(Twitter: @smalldoemu )
スポーツ科学研究者。早稲田大学スポーツ科学研究科、博士後期課程。S&Cコーチ。
──普段、久保さんがやられていることを教えていただけますか?
大学院で主にBIG3の研究をしていて、今はスクワットをするときにバンドをつけるとどういう生理学的な変化があるのか、どういうバイオメカニクス的な変化が起きるのかというのを研究しています。
──もともと、そういったバイオメカニクスの研究をずっとされていたのですか?
大学の学部4年間は運動生理学をやっていたんですけど、大学院に入ってからスクワットとかベンチプレスの研究をしようかなと思いまして、今はそっちをメインでやっています。
──どういった経緯でスポーツに関する研究をされるようになったのですか?
今在籍している大学がスポーツに関係する大学でして周りを見渡すとトップアスリートがたくさんいるんですけど、そのトップアスリートがどういうトレーニングをしているのかとか、「なぜ足が速いのか?」とかというのを考えたりしてるうちに気づいたらこの世界に入っていた、という感じですね。
──ご自身でもなにかスポーツをやられていたりしたのですか?
柔道をずっとやっていました。スポーツはずっとやってきたんですけど、指導者とか、サポートとしてスポーツと関わるようになったのは大学院に入ってからですね。
──パワーリフティング選手の方々と協力して研究をされているとお伺いしたのですが、面白い点、勉強になる点を教えていただけますか?
スクワットとかベンチプレスとかデッドリフトに、これだけ情熱を注いている人って他には絶対いないんです。どうしてもこういう基礎的な種目って軽視されがちなんですけど、ベンチプレスのために、スクワットのために、デッドリフトのために、ということをこれだけ考えてやってる人は他のスポーツをやってる人の中にはいないので、そこはもう取り換え用のないものだと思っています。そこをパワーリフティングの方々に教えていただいて、勉強になったなと思います。
──パワーリフティングの方々と一緒に研究された成果を、これからのスポーツ界にどのように還元していきたいですか?
どんな競技でもBIG3をやることで絶対に競技力が上がると僕は研究者として考えていて、そしてパワーリフティングの方々はいかに効率良く重いものを上げるかというのを自らの体で実践している人たちなので、そこが融合していくことで日本のスポーツがもっと強くなるんじゃないかと思っています。バーベルを使った基礎的な種目は絶対に大事なので、これからもパワーリフティングの方々に協力をいただきながら研究を続けていきたいです。
──今日はありがとうございます。応援しています。
ありがとうございます。
以上でインタビューは終了の予定だったが、同席していた信田選手が久保さんの考えをより深く引き出そうと質問を投げかけてくれた。
(以下、聞き手は信田選手)
──やっぱり他の競技の人もBIG3はやった方が良いですか?
絶対に。
──そのあたりをもう少し詳しく。
効率良く鍛えられるじゃないですか。効率良く重いものを使って上半身も下半身も鍛えられるっていうのは他の種目にはないですよね。自重トレーニングで100回とかは、もちろんきついですけど、バーベルを使ったトレーニングには代えられないと僕は思っています。それをやらないで何をやるの、ぐらいの感じですね。
──例えば野球とかサッカーとかが日本だとメジャーなスポーツですけど、そういう選手もどんどんやるべき?
もちろんです。日本全体の競技力向上のためには、野球をやっている、サッカーをやっているという人の全員がこういう種目をやるようにならないとダメだと僕は思っています。
──陸上もですか?
もちろん陸上もです。全部そうです。土台をいかに形成するか。土台を作って、そこから競技ごとにプログレッションしていくのが普通だと僕は思います。
──久保さんから見て、日本のメジャーなスポーツとか、トレーニングとかの現状はどういう状態ですか?
やっぱり、土台がしっかりしていないのに、基礎的な筋力がないのにプログレッションしようとしてしまうせいで身につかないということがあるのが現状だと思います。あとは、流行りに流されて変なトレーニングをしてしまっている人が多いですよね。だから基礎的なトレーニングが流行りになればいいなと思ってるんですけど。
──やっぱり変だなと思うトレーニングがある?
それは本当にいろいろあって……。僕は、これをやれば急に競技力が上がるというものは基本的におかしいと思っています。
──久保さんはどの競技をやる人にとってもBIG3のトレーニングが絶対に大事だってことを常々仰ってるんですけど、BIG3の動き、例えばスクワットって、単純にしゃがんで立つ動きじゃないですか。それがどう競技に繋がっていくんですかね?
もちろん動きは似ていないですよ。BIG3の動作はそもそもスポーツの中ではしないんですけど、バーベルを使ったトレーニングをすると柔軟性が向上するという研究結果もあるんです。柔軟性が向上しつつ、かつ筋力もその可動域で得られるというのは、どんな競技でもパフォーマンスの向上に繋がる土台になりますよね。
──競技と動作が違うからウエイトトレーニングをやる必要はない、競技動作の中で負荷をかけていくのが良い、という考えが日本では根強いと思うんですけど。
そういう考えがあると思うんですけど、そもそも、それをやっていて鍛えられていないんだから……。だったら、バーベルを担いで効率良くやった方が良いんじゃないかなと思います。実際に効果があるというデータがありますから。
──ありがとうございます。せっかくだから色々と話を聞かせてもらいました。なかなかこういうことを教わる機会ってないですよね。自分がスポーツをやっていた時にこういうことを教えてもらっていたらもっといけたんじゃないのか、という風に思う人も多いと思うんです。それも運ですけど、多くの可能性を潰されちゃってるという現状があるので。久保さんが仰ってるような考えが浸透するといいですよね。
ありがとうございます。
(インタビュアー・富樫重太 文・取材班 編集・マッスル剛志)
次回、【パワーリフティング集中連載】のラストとして、選手協力のもと製作させていただいたパワーリフティングのルール紹介動画をご紹介いたします。