【パワーリフティング集中連載】信田 泰宏選手「基本三種目を極めようとしている人たちがいるということを知ってほしい」
インタビュー日時:2017年5月15日(月)
場所:東京都目黒区三田2-1-12 Master Mind
パワーリフティング、信田 泰宏選手。自身についてだけでなく他の選手や有益なトレーニングに関する情報を発信するなど、彼ほどパワーリフティングの発展のためにSNSを利用している選手はいないかもしれない。そんな信田選手の想いについて話を伺った。
■信田 泰宏選手(Twitter:@yasuhiroshida)
2017年世界クラシックベンチプレス選手権一般83kg級3位、ジャパンクラシックベンチプレス選手権一般83kg級優勝、ジャパンクラシックパワーリフティング選手権一般83kg級3位。
──パワーリフティングを始められたきっかけは?
小中高大と15年間ラグビーをやっていました。ラグビーのいわゆる「桜のジャージ」、日本代表を各カテゴリーで目指しながら頑張ってきたのですけれども、大学の4年間が終わって、これから社会人でもラグビーをやるのか、辞めるのか、いろいろ考えて、結局ラグビーをやめるのですが、その時にトップの世界で自分がやっていけなかったという一つの挫折をしまして。ただ、どこかにもっと自分の可能性があるんじゃないか、ラグビー以外の、自分の特性に合ったスポーツがあるんじゃないかと思いました。
もともと僕は体が細かったことがコンプレックスで、ラグビーでもフィジカルで負ける経験をたくさんしてきました。ラグビーはコンタクトのスポーツなのでフィジカルで負けると相手にならないんです。でも高校の時から本格的にはじめた筋力トレーニングのおかげで体がだいぶ変わって、大学の4年間、上のリーグでやれました。それで、自分がこれからやっていく競技を考えた時に、自分を変えてくれたトレーニングというものが好きだったのでそれに関連するものをやりたいと思って、最初に目についたのはボディビルだったんですが、トレーニングをしていく中でパワーリフティングという競技があるということを知り、これは僕に向いているかもしれないなと思ってはじめました。
──もともとは体が細いことがコンプレックスだったのですか?
コンプレックスでしたね。僕は中高一貫校だったので中学3年生くらいの時から高校生にまじってウエイトトレーニングを始めたんです。そうなると、フィジカルトレーナーさんやメディカルのトレーナーさんもいる学校だったので、指導を受けるわけですけど、そこでやっぱり「細い」と、「マッチ棒だ」と言われて(笑)
──今じゃ考えられないですね。
いやいや、そんなことないです。僕のポジションはウイングと言って、メインはランニングをするような最後のトライゲッターのポジションで、ラグビー選手の中でも体の小さい人が多いポジションではあるのですが、その中でもやっぱり細かったです。関東であったりとか高校日本代表だとか、そういうセレクションに行くと僕よりも大きくて体重のある選手が同じウイングというポジションにいて、しかも足の速さが僕とあまり変わらなかったりするわけです。僕のほうが速かったとしても、0.1秒、0.2秒速い程度の話で。そうなってくると、ラグビーにおいては自分よりも20kg重い選手の方が圧倒的に強いわけです。そこで完全に一回心を折られまして……。体を変えなきゃいけないということで、高校に入ってからトレーニングをして、体がだいぶ変わった。なのでトレーニングは好きでしたね。
──パワーリフティングをやっていて一番楽しい瞬間、やっていて良かったなと思う瞬間はどんな時ですか?
やっぱり今まで自分が上げられなかった重量を上げられた時ですね。絶対重量という数字があるので、その数字を更新できた時が一番楽しいです。あとは、数字を更新するまでの過程も非常に楽しいです。僕の周りは非常に恵まれた環境でして、サポートをしてくれる非常に優秀なメンバーがいます。自分で勉強しながらも、そういう方たちから助言をいただいたりしながら、体のことを勉強しています。それと、僕は個人的になるべくSNSを使って情報発信をしようと心がけているんですが、SNSを通じて応援してもらえて、単純に自分が記録を更新したら喜んでもらえる。今はそういうところにも非常にやりがいを感じる、嬉しい瞬間がありますね。
──twitterも見させていただいているのですが、なぜそうやって情報を発信しようと思ったのですか?
僕が競技を始めた時に、トップ選手がどういう考え方をしていて、どういうことをやっているか、すごく興味があったんです。例えばボディビルで連覇された鈴木雅さんとか、そういう人たちがブログとかtwitterとかをやられていたら嬉しいなあと思っていました。
自分がtwitterを始めた時はそういう選手から情報を得ることがメインでしたけれど、だんだんと自分の実績がついてきた中で、今度は自分が発信する側になって、パワーリフティングの知名度を上げることに少しでも貢献したいと思うようになりました。私はまだまだですけど、私の周りにいる強い選手がやっていることなんかもどんどん発信していけたらと思っています。トップ選手はこういうことをやっているんだということを知れるのはやはりすごく良いことだと思います。なるべくみんなと近い存在でありながら、同じようなことを頑張っているんだよということを知ってもらいたいですね。
──パワーリフティングという競技自体をなぜそんなに知ってもらいたいのか、というあたりをもう少し詳しく聞かせてください。
パワーリフティングの種目というのは、トレーニングにおいて王道というか、最も基本的な動作なんですけど、できない人が多いんです。今フィットネスブームでいろいろな方が体を鍛えていますけど、その基本の三種目をトレーニングメニューとして飛ばす方とかもいらっしゃるんです。そうじゃなくて、王道の基本三種目をやってほしいという想いがあります。
そして、やっぱり単純に、自分がやっている競技の世界を知ってもらいたいというのがありますよね。基本三種目を極めようとしている人たちがいるということを知ってほしい。パワーリフティングという競技は非常に魅力のある競技だと思います。競技性が非常に高い、分かりやすい、というのはラグビーを長くやってきたからこそわかるパワーリフティングの良さだと思います。
──誰でもチャレンジできますしね。
そうですね、ジムならどこでもできます。今、すごくいろいろなジムが増えていて、小さいジムとか、24時間ジムもありますし、ホームジムを作っている方もいらっしゃいます。バーベルとプレートがあればどこでも練習できるのはパワーリフティングの特徴ですね。
ベンチプレスって、特にアスリートの方とかじゃなくても、男性だったらけっこうやっている方っているじゃないですか。「だいだいベンチプレス何kg上がるの?」とか男性同士の会話にあると思うんですけど。そのベンチプレスの競技がある、ということを知ってもらいたいですし、大会にも気軽に出てもらいたいです。やっぱり競技に出ることで、仲間ができたりとか、次は何kg上げようという目標ができたりとか、得られるものが多いのではないかと思います。
──これから、個人のことでも、競技自体のことでも良いのですけれど、こうなったら良いなということはありますか?
個人の目標としては、世界で活躍できる選手になりたいなとは思っていますね。ラグビーがそうだったと思うんですけど、やっぱり世界で活躍する選手がいるとその業界全体が注目してもらえるじゃないですか。競技自体の活性化のためにも世界で勝てるというのが大事だと思いますね。今はまだパワーリフティングで世界で優勝を狙える選手はなかなか出てきていないので、自分がそういう選手になれればいいなと、そのために努力をしていけたらいいなと思っています。パワーリフティングは素晴らしい競技なので、ぜひ多くの方に知ってもらいたいです。
(インタビュアー・富樫重太 文・取材班 編集・マッスル剛志)