【特別コラム・舟橋 立二さん】「自己防衛機能」を知ることで、怪我からの復帰へ向けて何をすべきかわかってきます
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舟橋 立二さんのプロフィール:(CSCS, JATI-ATI, FA Medical Level2)
トレーニング指導・トレーナー派遣のADP :http://adptrainers.com/
アメリカで数多くのメジャーリーガーを排出するCalifornia State University, Long Beachにて学生トレーナーを経験後、アジア人初NBAプレイヤーになった選手やデニスロッドマンが所属していたチームにてヘッドトレーナーを歴任し、日本に帰国。その後、日本大学バスケットボール部で日本一を経験。現在、三菱重工相模原ラグビー部にてヘッドトレーナー・チーフメディカルとして活動中。
その他、NBDL2連覇中のプロバスケットボールチーム東京エクセレンスのメディカル・スーパーバイザー。また、パーソナルトレーナーとして、ロンドンオリンピック代表でアジア大会2014の銀メダリストの土居愛実(セーリング)の専属トレーナーとしても活動している。
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人は怪我をすると「自己防衛機能」が働きます。それを知ることで復帰へ向けて何をすべきかわかってきます。
病院で診察してもらうと、何日間または何週間、運動は控えてくださいってドクターに言われます。
その何日、何週間は何をすればいいのでしょうか?
《怪我をすると起きる身体の反応》
【筋萎縮】
人間は、怪我をすると悪化させないために身体に様々な変化をもたらします。
その一つに筋萎縮があります。これは、怪我部分を動かして悪化しないため、そして安静にして治癒能力を上げるために筋肉を小さくして活動しにくい形にします。
そのようにして怪我を直すために身体が無意識下で考え反応する「自己防衛機能」が人間には付いています。身体はとても不思議なものです。膝を例にとってみましょう。
【膝の例】
例えば、前十字靭帯(ACL)が損傷した後は、VM(大腿骨内側広筋)と呼ばれるもも前の筋肉の一部が一番早く萎縮します。これは、ACLの怪我を起こすと膝に腫れが起こり、まず関節自体の可動性を制限します。それにより関節にある固有受容器(脳と筋肉をつなぐ神経のためのレセプター)の機能を低下し、休ませます。
そうするとそこをつなぐ筋肉は脳からの指令も低下するために筋肉は小さく萎縮します。
そのような自己防衛機能で患部を保護します。
そして、痛みがなくなり、身体に危険がなくなった状態になると、筋肉は萎縮する必要がなくなります。
《復帰で「筋肉を鍛える」以上に大事なものとは?》
【筋力の低下】
上記の説明からもわかる通り、この落ちた筋肉自体のアプローチは重要ですが、日常生活(ADL)をしていくうちに筋肉もある程度戻ります。それは生きていく上で最低限の筋力が必要なためです。
ただ、スポーツ選手などは、ADL以上のことを行うためトレーニングにより筋肉を鍛える必要があります。これにはしっかりしたリハビリテーションが必要になります。これを「アスレティックリハビリテーション」と呼んでいます。
そして、怪我をすることで大きく落ちる機能がもう一つあります。
【固有受容器の低下】
それは、上記でも軽く触れましたが固有受容器です。これは筋肉と脳をつなぐ神経のレセプターで、一般的には足を動かす早さ、今足や腕などがどこにあるかという空間認知能力などの役割を担っています。
怪我をすると、この機能も低下し、頭で考えている場所(空間)やスピードで筋肉をうまく動かせないという症状がおきます。
先日チームで膝の手術後のリハビリを行っている選手に、話しを伺ったところ。こういう感想がありました。
「筋肉は大きくなって見た目は十分な感じはするけど、走ったりすると何か違和感がある。思った通りの早さで足が動かせない・・・」
これは、この固有受容器が低下しているからだと考えられます。つまり怪我をした後、復帰までこの機能も元通りにしてあげる必要があります。
それがスポーツにおけるリハビリのコツと言っても良いかもしれません。また意外とこの要素はリハビリの過程で忘れがちな点でもあります。
【両方をしっかり鍛えてから復帰】
リハビリでは関節の可動域や筋力を戻すことももちろん重要ですが、それだけでは不十分で、同時にこの固有受容器を戻すための努力が必要です。
結果的に、この機能向上がパフォーマンス向上にもつながります。
しっかり両方の重要な点をしっかり鍛えてから復帰しましょう!
(文・舟橋 立二)