【百本コラム】七本目:『足部の運動連鎖トリガー応用編』
筋肉バカドットコムを御覧の皆様!こんにちは!中村(なかむら)知広(ともひろ)です。
さぁ!もちろん今回もコラム本題とは無関係な脱線話からスタートです!
皆さん、映画『リング』は見ましたか?
鈴木光司さんの小説を原作とした、中田秀夫さん監督のホラー映画です。
言わずと知れたジャパニーズホラー映画の金字塔。
あらすじは以下の通り。
テレビ局ディレクターの浅川玲子は都市伝説『呪いのビデオ』について取材していた。
「呪いのビデオを見た者は一週間後に死ぬ」
浅川は呪いのビデオにまつわる奇妙な関連性に気付き始め、取材を進めるうち、ついに本物の呪いのビデオを見てしまう。
死のタイムリミットまでに呪いビデオの謎を解明すべく、浅川は元夫の高山竜司と共に奔走する。
リングは僕の人生の中のダントツNo. 1恐怖です。
初めて観てから一週間は本気で「貞子がテレビから這い出てくるんじゃないだろうか…」とビビりまくっていました。
余りにも怖かったため「恐怖って何なんだろう?」という哲学的なテーマが生じ、恐怖について分析するようになったほどです。
ここからは僕の恐怖についての考察と、リングの怖さの構造について、お話しします。
恐怖という感情の根源は防衛本能。
危険からの回避を促すためには、恐怖という感情が必要なわけです。
暗闇に恐怖を感じるのは、視覚が遮断されている状況のリスクを回避するためですね。
恐怖は防衛本能を根源とし、そこから①『肉体的な恐怖』と②『精神的な恐怖』の二つに分類されると考えられます。
『肉体的な恐怖』
①肉体的な恐怖とは、「高い所が怖い」「刃物を突き付けられるのが怖い」「血が怖い」って事です。
スプラッター映画やジェットコースターなんかの恐怖は、この分類に属します。
より本能に近い恐怖と言えます。
『精神的な恐怖』
②精神的な恐怖とは、「心霊写真が怖い」「こっくりさんが怖い」「壁のシミが怖い」って事です。
こちらは本能的と言うよりは、複雑な精神構造を持つ人間ならではの恐怖と言えます。
想像力が強い人ほど「〜かもしれない」「〜のような気がする」といったような予想が、恐怖を倍増させます。
①はアメリカのホラーっぽくて、②は日本のホラーっぽいと考えてもらってOKです。
ここまでの話を総合したら「じゃあリングは②だな」と思いますよね?
もちろんリングの基本テイストは②なのですが…
リングのエポックメイキングな部分は『丁寧な②の積み重ねからのオチにビックリ箱的な①を持ってきた事』にあります。
ビックリ箱的な①ってのは、テレビから貞子が這い出てくるシーンの事。
リングを観た事がない人でも知っているであろう有名なシーンですね。
そのシーンまでは都市伝説だとか、呪いだとか、超能力だとか、②を丁寧に積み重ねていたのに、最後の最後にビックリ箱的な①がズドン!と出てくる。
これほど効果的な構造はないと思います。
何故なら、恐怖は慣れる事によって和らいでしまうものだからです。
慣れて怖くなくなるのが②の限界であり、リングはその限界付近で①を使う事により、それまでのホラー映画の限界を突破したわけです。
もちろんリングの怖さの構造は、これだけに止まりません。
映画世界と現実世界の境がないかのような演出、辻褄が合っているようで合っていないストーリー、終わりがなく増殖していく円環構造…
作り手さん達の創意工夫と熱意が感じられます。
まだ観ていない方にはオススメです。
しかし残念ながら、おそらく当時ほどの恐怖を感じるには至らないでしょう。
現在はVHSビデオテープもブラウン管テレビも少ないし、ジャパニーズホラーの隆盛により貞子はアイコン化され、②からの①という手法も使い古されてしまっているからです。
もったいない…
慣れてしまう事にも恐怖を感じなければ、人生がつまらなくなってしまうような気がしませんか?
そう、慣れてしまう事は怖い事です。
例えば、靴の機能に頼ってばかりで足部の機能が未発達である事に気付けない。
更には、足部の機能が未発達であるが故に最適な身体の使い方が選択できない。
このように代償動作に慣れてしまうと、自分自身の身体の最適な使い方を自覚的に選択できなくなってしまいます。
さぁ、本題に入りましょう。
【本題】
最適な身体の使い方の話、『足部の運動連鎖トリガー応用編』です。
今回お話しする内容は前回までの内容が土台となりますので、「?」となったら前回までのコラムを読み返してみてください。
また今回は『代償動作がない』という前提でお話を進めていきますので、代償動作がある方は代償動作の修正が完了してから実践しましょう。
まずは軽くおさらいから。
【おさらい】
①運動連鎖とは、身体運動の連なり合いの事
②運動連鎖トリガーとは、運動連鎖を誘発する引き金的な動作の事
③随意運動は意識的に作り出す動作、不随意運動は無意識的に生じる動作
④足部の運動連鎖トリガーは、全MP関節の伸展と全IP関節の屈曲である『足趾の握り込み』
⑤足関節の主な動作は、背屈/底屈
以上の知識を前提として、お話を進めていきます。
それでは、まず足関節の動きの補足から入ります。
足関節の主な動きは①背屈/②底屈ですが、他にも③外転/④内転と⑤回外/⑥回内があります。
【足関節の主な動き】
①背屈は、爪先を持ち上げる動き
②底屈は、爪先を下げる動き
③外転は、爪先を外側に向ける動き
④内転は、爪先を内側に向ける動き
⑤回外は、足部の外側を下げて内側を上げる動き
⑥回内は、足部の外側を上げて内側を下げる動き
(プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 監訳 坂井建雄 松村讓兒)
実際には、これらの動作が単独で起こる事はなく、シチュエーションに合わせて複合的に起こります。
例えば、前方へ歩行していく場合。
足関節の背屈をしながら、足部が接地し、足関節の底屈をしながら、地面を蹴って次の一歩が出るわけです。
しかし更に細かく動作を見ると、足関節の背屈と共に回外と内転が起こっているし、足関節の底屈と共に回内と外転が起こっています。
(プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 監訳 坂井建雄 松村讓兒)
これが左前方への歩行だと、右足関節においては底屈の際の回内と外転がより大きくなり、左足関節においては底屈の際の回外と内転が生じます。
要するに、進行方向への重心移動のために足関節が傾くのです。
こうして足関節で傾きを作る事によって、スムースな重心移動が起こり、無駄なく合理的な理想動作が作られるわけです。
もちろん、これらの細かい動作は随意的に出すとなると反応が遅れてしまいます。
競技パフォーマンスや緊急回避動作において、反応の遅れは大きなロスとなります。
では、どうするか?
【獲得方法】
一つは、随意的に足関節を動かしながら反復練習を重ねて、やがて不随意的な理想動作を獲得する方法。
最も地道な方法ですね。
一から積み重ねていく必要がある方には適した方法であると考えられます。
しかし今回の前提は『代償動作がない』という事ですので、一から積み重ねていく必要がない方に向けた方法を挙げましょう。
という事で、『足部の運動連鎖トリガーを利用して一気に不随意的な理想動作を獲得する方法』についてお話ししていきます。
『足部の運動連鎖トリガーである足趾の握り込みは、ウィンドラス機構を働かせる事によって足部の剛性を高め、力の伝達を最大限に活かす事が出来る』
前回までのコラムでは足部の運動連鎖トリガーについて、ここまでしか解説していませんでしたが、今回は応用編です。
【応用編】
まずは基本的な所から。
足趾の握り込みの方向は、五本趾すべてが踵骨の底面の中心(踵骨隆起)に向かうのが理想です。
(プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 監訳 坂井建雄 松村讓兒)
もし一本でも握り込みの方向が踵骨隆起に向かっていないとしたら、それは代償動作です。
例えば、外反母趾や内反小趾の方は、あらぬ方向に握り込みが起きてしまいます。
これでは運動連鎖トリガーとしての役割を果たせないどころか、別の障害を誘発しかねません。
握り込みの方向を修正しましょう。
この基本を踏まえた上で応用です。
握り込みの方向は踵骨隆起に向けたまま、握り込みの力の配分を変えるのです。
※親趾を第一趾、人差趾を第二趾、中趾を第三趾、薬趾を第四趾、小趾を第五趾と呼びます
■ステップ1
まず、フラットに足趾の握り込みを作ります。
すべての趾が均等な力で握り込まれている状態です。
そこから、第一〜三趾の握り込みの力を強くしてみましょう。
内側縦アーチが少し挙上したはずです。
これを『母趾球握り』と命名します。
■ステップ2
今度は、フラットに足趾の握り込みを作ってから、第三〜五趾の握り込みを強くしてみましょう。
外側縦アーチが少し挙上したはずです。
これを『小趾球握り』と命名します。
この『母趾球握り』と『小趾球握り』を進行方向に合わせて使い分けるのです。
具体的には以下の通り。
・進行方向が左前方の場合の蹴り出しは、左足部において小趾球握り、右足部において母趾球握り。
・進行方向が右前方の場合の蹴り出しは、右足部において小趾球握り、左足部において母趾球握り。
このように母趾球握りと小趾球握りを運動連鎖トリガーとして利用する事により、自然と進行方向への蹴り出しに対抗するための足部の剛性が完成し、且つ自然と進行方向への重心移動のための足関節の傾きも完成するのです。
更に言うと、「長趾屈筋」「長母趾屈筋」「長趾伸筋」「長母趾伸筋」などの 足関節を跨ぐ筋腱が収縮し、足関節の剛性も高まります。
(プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 監訳 坂井建雄 松村讓兒)
【獲得効果】
これにより、運動パフォーマンス向上のみならず、足関節捻挫などの傷害リスクも抑えられるのです。
初回からコラムを読んでくれている方は既にお分かりかと思いますが、少しだけメカニズムについて解説します。
・母趾球握りによって、足底にある第一〜三趾の屈筋群が収縮し、内側縦アーチが挙上します。
・小趾球握りによって、足底にある第三〜五趾の屈筋群が収縮し、外側縦アーチが挙上します。
進行方向が左前方の場合の蹴り出しにおいては、左足部の外側と右足部の内側に体重が掛かります。
それぞれの足部の体重が掛かる側のアーチを挙上させる事によって足部の剛性が増し、より効率よく推進力を得る事ができ、且つ足関節の傾きを重心移動に活かす事が出来るのです。
『代償動作がない』方は、このコラムを読んで少し練習しただけで、母趾球握り/小趾球握りを運動連鎖トリガーとして使いこなせるようになるでしょう。
一旦、理解して体現できてしまえば、その運動連鎖は不随意運動として反射的に出てくるようになります。
自転車に乗れるようになるのと同じですね。
しかし繰り返しになりますが、この方法は『代償動作がない』という前提条件が必須です。
代償動作がある方は、まず代償動作の修正から入りましょう。
つまり、大多数の人が代償動作の修正から入るべきだと考えます。
何事も基本が大事。
という事で、次回は「代償動作がなかなか修正できない」という方のためのお話をしましょう。
次回テーマは『自覚性の原則 足部/足関節編』です。
乞うご期待!
(文:中村 知広)
中村さんのコラムで疑問や何か知りたい事などがあれば、
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