【百本コラム】五本目:『代償動作ってなぁ~に?』
筋肉バカドットコムを御覧の皆様!こんにちは!中村(なかむら)知広(ともひろ)です。
皆さん、漫画『バキ』シリーズ読んでますか?
読んでない人にはポカーンな話ですが、烈(レツ)海王(カイオウ)というキャラクターが僕のお気に入りです。
烈海王カッコイイですねー。
「自説の正当性は闘って示す以外はない」
「私は一向に構わんッッ」
メチャクチャな言い分なんだけれども、自分が積み重ねてきた事に対する自負と、それに見合った力を備えているから、
力尽くの説得力がある。
ほんとメチャクチャな言い分ですが、強さの元素って突き詰めるとそーゆー事になるんですよね。
つまり、我儘を通す力!
これはバキシリーズ作者の板垣恵介さんのメッセージでもあります。
人間は理知的に進化する事によって闘争以外の方法で決着をつける事も可能になったわけですが、その反面、本質を見誤りやすい社会になったとも言えます。
色即是空…空即是色…
何が本質かなんて確定できるものではありませんが、「強くなりたい」という意志は人として必携かと思います。
何を目指すにしても向上心がなきゃプロセスを楽しめないですしね。
求道者はエキセントリックな一面と優しい一面を併せ持つ存在です。
烈海王は「強くなりたい」求道者、だから強くてエキセントリックで優しく、そんなキャラクターに魅力を感じるのでしょう。
烈海王に興味が湧いた方は、是非『バキ』シリーズを読んでみて下さい。
烈海王の他にも、エキセントリックなキャラクターが沢山いて面白いです。
ちなみに、僕の中のベストバウトは花山(はなやま)薫(かおる)VSスペックです!
はい!では今回の本題『代償動作』について解説していきます。
【本題】
まずは言葉の意味から。
代償とは、目的を達する為に犠牲にしたり失ったりするものの事。
動作とは、身体の動きの事。
つまり代償動作とは、ある目的を達する為に起きる〝合理的でない〟身体の動きの事。
この〝合理的でない〟という所が重要。
■合理的とは
①論理にかなっているさま。因習や迷信にとらわれないさま。 「 -な考え方」
②目的に合っていて無駄のないさま。 「 -な作業手順」
■別の部位が取って代わりその役目を果たす。代償動作
「長年の身体使いのクセ」によって「代償動作」という問題が起きてくるケースもあります。
聞きなれない言葉かもしれませんが「代償動作」とは、本来使うべき体の部位が弱ってきたときに、
別の部位が取って代わり、身代わりとなってその役目を果たしていることをいいます。
〝代償〟〝合理的でない〟という字面の印象から、何となく「良くない動作なんだろうな〜」と類推できると思います。
正にその通り、代償動作は良くない動作であり且つ厄介な動作なんです。
代償動作を論じる上では、〝その動作の目的において合理的かどうか〟という事も踏まえなければなりません。
なぜなら、ある種の競技はルールによって何かしらの動作制限が設けられていたりするし、競技に勝つ事が至上目的とするならば傷害予防の観点は二の次になるからです。
■目的を確認し合理的かどうかを考える必要性
(例えば競歩。股関節の屈曲と伸展をより大きく使えば早く走れるが、それはルールに抵触する。または腰痛が起ころうが膝痛が起ころうが世界記録を出せるのであれば、それが合理的な動作と言える)
また、ストリクトトレーニングにおいては、筋肉に効かせる事が至上目的となるので、合理的な動作=最も筋肉に負荷を与えられる動作となるからです。
(ストリクトとは厳格という意味。ボディビルダーが筋肉を大きくする為に用いるトレーニング方法)
いずれストリクトトレーニングについても書いてみたいと思いますが、今回は〝人体構造における合理的な身体機能の発揮〟という目的に焦点を絞って代償動作を解説していきます。
それでは前回までに述べてきた足部から代償動作の解説を始めます。
「?」となったら以前のコラムを読み返してみて下さい。
~〝人体構造における合理的な身体機能の発揮〟という目的に焦点を絞った代償動作~
【足部から代償動作の解説】
足部にまつわる主な代償動作と〝代償動作が原因となる障害〟と言えば、外反母趾と扁平足でしょう。
外反母趾とは、母趾が小趾側に曲がってしまう代償動作であり、母趾を開く筋肉が弛んでしまう事で起こります。
扁平足とは、足部アーチが低下してしまう障害であり、足部アーチを支える筋肉や腱などが弛んでしまう事で起こります。
これらの代償動作や障害を持つ人のほとんどは、足部の機能を働かせる事なく靴の機能に頼って動作を作っています。
つまり、本来ならば母趾をまっすぐに開く事や足部アーチの剛性を保つ事は人体に必須の機能ですが、これらの身体機能を靴の機能で代償しているわけです。
加えて、神経支配比が大きい足部のコントロールは難しいため、自分が本来の身体機能を靴で代償している事に気付く人は稀です。
…これらは烈海王には全く該当しない問題ですね。
【外反母趾と扁平足はお互いに増長し合う関係】
外反母趾と扁平足はお互いに増長し合う関係にあります。
「母趾をまっすぐに開けないから足趾を握り込む事が出来ず、結果、足部アーチが低下する」とも言えるし、「足部アーチが低下するから、結果、母趾が小趾側に圧し潰される」とも言えます。
「卵が先か?鶏が先か?」の因果性のジレンマと似た問題です。
更に厄介なのは、これら代償動作は足部の問題だけに留まらず、全身に波及するという事。
例えば、扁平足はX脚を誘発します。X脚とは、膝が内側に倒れ込んでしまう姿勢の事。
扁平足によって足部アーチが潰れた分、脛が内側に倒れ込み、結果、膝の位置が内側に倒れ込んでしまうのです。
これにより膝の回旋が助長され、膝の障害が発生します。
X脚はKnee in Toe out(ニーイントゥーアウト)という代償動作の原因となります。
【Knee in Toe out(ニーイントゥーアウト)】
Knee in Toe outとは、しゃがみ込みや立ち上がりの際に爪先が外側に向いた状態で膝が内側に入ってしまう動作の事。
これは代償動作の代名詞と言ってもいいほど、顕著に表れやすい代償動作です。
Knee in Toe outの問題点は、膝関節が屈曲や伸展する際に、余計な回旋が加わってしまう事です。
これにより筋肉や靭帯や軟骨組織に摩擦や衝突が起こり、半月板の損傷や前十字靭帯の損傷などが発生するわけです。
膝関節は本来、屈曲と伸展に特化した構造であるため、回旋には弱いのです。
【代償動作(足部の身代わり)は全身へと波及していく】
皆さんは、週刊少年ジャンプを手で引き千切った事ありますか?
やった事がある方はお分かりだと思いますが、あれって普通の女の子でも出来ます。
力の入れ方のコツは、雑誌の折れ曲がる点に対して回旋力を入れる事です。
つまり、膝関節もこれと同じ。
Knee in Toe outは更に全身に波及し、股関節の可動性をも阻害します。
Knee in Toe outによって膝関節に回旋の可動性が加わる事によって、股関節を動かさなくてもある程度までの動作は作れてしまうのです。
この代償動作を多用する事によって、やがて股関節の可動性が失われていきます。
股関節の可動性が失われると、体幹の不安定性が発生し、反り腰や猫背などを誘発します。
そして反り腰や猫背は、腰痛や肩こりなどを発生させます。
また更に、反り腰や猫背は……… 以下ループ!
このコラムを初回から読んでもらっている方は気付いたかもしれません。
このような代償動作の負の連鎖も、運動連鎖の一種なのです。
ここまで述べてきた代償動作の関連性を簡略化すると以下の通り。
【代償動作の関連性】
①足部の機能を靴の機能で代償してしまう ⇔ ②扁平足や外反母趾などが発生する ⇔ ③脛が内側に倒れ込んでしまう ⇔ ④X脚やKnee in Toe outなどが発生する ⇔ ⑤股関節の可動性が低下する ⇔ ⑥体幹の不安定性が増す ⇔ ⑦反り腰や猫背が発生する ⇔ etc…
このような代償動作が、全身に負の運動連鎖を作り上げ、様々な形で顕在化していきます。
膝痛・腰痛・肩こりなどといった障害、ポッコリお腹やお尻が垂れてきたりなどといった体型の崩れ、転びやすくなったり競技能力が伸び悩んだりといった運動パフォーマンスの低下などなど。
代償動作と体型の崩れが、どのように関係しているのか?分かりにくいかもしれないので、もう少し説明を加えます。
【ポッコリお腹になる理由】
ポッコリお腹の一因はお腹の筋肉が弛んでしまう事であり、それによって内臓が押さえ込めなくなってしまって起こるわけです。
お腹の筋肉が弛んでしまう一因は、代償動作によってお腹の筋肉の働きが少なくなってしまう事。
つまり代償動作を修正すれば、本来のお腹の筋肉の働きが取り戻され、お腹の筋肉が引き締まり、ポッコリお腹が解消されるわけです。
〝風が吹けば桶屋が儲かる〟または〝バタフライエフェクト〟。
一見すると関連性がないように見える事柄が実は深く関連しているのです。
あなたのポッコリお腹の原因は扁平足なのかもしれません。
「より楽により楽に」のみを追求していると、代償動作の負の連鎖にはまってしまいます。
【楽な動作の代償】
実際、多くの人が代償動作を不随意運動として多用しています。
楽な動作の代償は蓄積され、いずれ払わなければならない時が来ます。
問題が顕在化するのは明日なのか?10年後なのか?30年後なのか?分かりませんが、今すぐに代償動作の修正に取りかかるべきです。
なぜなら、前回コラムで述べた通り、不随意運動の修正には多くの時間と労力がかかるからです。
人体の構造は合理的に出来ています。
その構造の通りに合理的に機能させさえすれば、全く何の問題もありません。
しかし、何が合理的なのか?何が代償動作なのか?を自分自身で理解するのは難しいですよね。
僕の運動指導の仕事は、クライアントの目的達成の為に問題を明確化し、その原因を特定し、解決方法を提案し、具体的方法を指導する事。
直接お会い出来れば明確なアドバイスが出来るのですが、このコラムを読んでくれている方々に直接お会いする事はなかなか出来そうにありません。
ならば、このコラム読者の方々には〝人体の構造と機能〟について理解を深めてもらうしかありません。
〝人体の構造と機能〟が理解できていれば、代償動作についても、運動連鎖についても、何となく自己分析できるようになれるはずだからです。
誰が読んでも理解しやすいように工夫しながら書いていきますので、どうぞ宜しくお願いします。
という事で、
次回テーマは『足関節の構造と機能』です。
乞うご期待!
(文:中村 知広)
中村さんのコラムで疑問や何か知りたい事などがあれば、
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