【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第5回(最終回)】どのようにすれば無駄なサプリにお金を使わずに済むのか

001 226 - 【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第5回(最終回)】どのようにすれば無駄なサプリにお金を使わずに済むのか

 

 前回までの記事で見てきたように、ネットは信用してはいけないデタラメな広告・宣伝で溢れています。しかしその一方で、デタラメを暴こうとする情報も存在しています。最終回である今回は、何らかのサプリ・健康食品に興味を持った際に「本当に効果があるものなのか、本当に自分に必要なものなのか」を調べるコツを皆さんにお伝えしたいと思います。

 

 ポイントとしては、

  1. ポジティブな意見とネガティブな意見の両方をチェックする
  2. 誰が、どのような立場で書いている情報かをチェックする
  3. 専門性の高い人が書いている記事を探す

の3つがありますので順に見ていきましょう。

 

ポジティブな意見とネガティブな意見の両方をチェックする

 例えばBCAAが今の自分に必要かどうかを知りたいとします。ここでただ単に 「BCAA 効果」などで検索すると、上からズラーッと販売会社によるBCAA解説記事が並びます。それを上から順番に読んでいくと、BCAAを売りたい人の、BCAAの良いところだけを時には誇張して羅列した情報をひたすらインプットしていくことになり、購買意欲だけが上がっていくことになると思われます。

 

 「BCAAが今の自分に必要かどうかを知りたい」のに、これは好ましくないですよね。ですので、必ずネガティブな意見も調べましょう。「BCAA 効果」「BCAA 効く」などで検索すると同時に「BCAA いらない」「BCAA 金の無駄」などでも検索し、それで出てきた記事を読むようにすることをオススメします。

 

誰が、どのような立場で書いている情報かをチェックする

 また、この時「誰が」「どのような立場で」その意見を述べているのかを意識して見るようにしましょう。

 BCAAを販売している会社のサイトの記事はそれはBCAAってすごいぜという内容になっているに決まっています。商品を売らなければいけませんからね。そういったサイトは論文も引用しながら効果がありそうに見えることが書いてありますが、前回の記事に書いた通り、ポジティブな論文のみを厳選して提示してそれらしく見せているのです。会社の宣伝ページを読むのはほどほどにしましょう。

 

 また、販売会社のサイトでなくても、例えば一番下までスクロールすると商品の販売ページへのリンクが置いてある記事など、結局は売りたいんかい! というサイトもよくあります。

 

専門性の高い人が書いている記事を探す

 では誰のどんな情報を読めばいいのでしょうか? 私が個人的に信用できると思う記事は、金銭目的でない、論文を引用した記事です。金銭的利益を得ようとしていない人であれば、より中立的な立場から意見を言えると思います。

 

 個人がまとめたページはほとんどが会社の宣伝ページをそのままコピーしたようなありきたりのもので、もちろん論文の引用などありません。「理系の科学者が紹介! エビデンスに基づいた情報を紹介!」としながらほとんどエビデンス・論文が紹介されていないページなどもあります。

 

 ですがよく調べると、自ら論文をいくつも提示しながらサプリの効果について議論している記事も見つかります。そのような記事は専門性の高い人が書いていることが多いです。そういった記事を根気よく探しましょう。

 

 また、英語の記事を探すのもひとつの手です。日本語で探す場合と比較して、良質な情報を楽に見つけることができます。エビデンスを提示しながら論理的にサプリなどを議論している良質な記事の数は英語の方が圧倒的に多いです。今は翻訳技術が進んでいるので、英語で記事を探してページを機械翻訳して見るのもいいでしょう。検索のコツはmyth(神話)、hype(誇大宣伝)、overrated(過大評価)などの単語と一緒に検索することです。「BCAA myth」「BCAA hype」「BCAA overrated」などで検索してみてください。

 

■ 3つのポイントを押さえた記事を探す方法

 以上の3つのポイントを意識して調べることで良質な情報に辿り着きやすくなりますが、ここで、「メタ解析論文」というものを紹介しようと思います。「メタ解析」とは、「複数の研究のデータを統合し、解析すること」です。「ポジティブな論文もネガティブな論文も全部集めてもう一回総合的に解析してみよう」というのがメタ解析なのです。つまり、メタ解析論文とは「ポジティブな意見とネガティブな意見を総合した情報」ということになります。

 

 よって、メタ解析論文が紹介されている記事があれは、それを参考にするのが一番だと思います。まずはメタ解析論文を探してみてください。例えば「BCAA メタ解析」で検索すると、メタ解析論文を紹介している記事が出てきます。

 

最後に

 以上の内容を踏まえて、みなさんもぜひ今後サプリを購入する際は「どんな効果があるのか」「いま自分が見ている情報は正しいのか」「今の自分に本当に必要なのか」とよく調べた上で判断してみてください。もちろん「自分はとにかく何でも買って使って試してみる派だ」という方はそれでもいいと思いますが、その場合でも「どういう効果があるのか、それは本当なのか」を調べることで、そのサプリのいわゆる「正しい使い方」を知ることができるので、ただ摂取するだけの場合と比べて必ずプラスになります。例えば当たり前のこととしてプロテインを摂取している人の場合でも、「プロテインはいつどのように飲むのが効果的なのか」などを調べることで、より効果的にプロテインを摂取できるようになるはずです。

 

 「常に疑いの目を持ち、自分で調べてみる」という姿勢は、サプリ以外のものに接する際にももちろん有効です。何かにお金をかける前によく考え、「本当にその価値があるのか」と調べることは非常に重要だと私は考えます。

 

 「筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解」連載、いかがでしたでしょうか。研究者の立場からはサプリメント業界がどのように見えているのか、が伝われば幸いです。

 

この連載のまとめ

・自分が摂取しているサプリについて、「どういう効果があるものなのか」「本当に効くのか」と一度立ち止まって考えてみることは大事である

・世の中には「科学的」という言葉を利用したデタラメな宣伝が数多く存在している

・「科学的な根拠」というものは論文、再現データの積み重ねによって徐々に確立していくものである

・宣伝に使われる「科学的根拠」はポジティブな論文のみを選んで紹介しているということを意識しておくべきである

・自分で「ポジティブな意見」「ネガティブな意見」両方を調べるようにし、信頼できる情報の見分け方を身につけるべきである

 

(文・東原兄弟)

 

【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第4回】「科学的」を謳う広告がなぜ信用できないのか

【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第3回】「科学」はみなさんが思っているほど完璧ではない

【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第2回】世の中にどれだけデタラメが溢れているか

【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第1回】サプリを購入している人に考えてもらいたいこと

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東原兄弟さんのプロフィール:

東原兄弟・兄(左)

 サイエンスと筋トレをこよなく愛する博士候補。東京大学農学部時代に生化学・生物物理・代謝・食のサイエンスを学び、卒業後渡米。ロックフェラー大学の博士課程に在籍中。
自律神経による心拍数制御の分子メカニズムを生物物理・生化学・細胞生物学的視点から研究。大学では体育会ハンドボール部に所属し、トレーニングの素晴らしさに目覚める。以降、サイエンスと筋トレを人生の柱に生きる。東原兄弟の頭脳担当として、栄養・生化学・サプリなどの情報を科学者ならではの視点から発信中。

 

東原兄弟・弟(右)

 筋トレとサイエンスをこよなく愛する修士候補。東京大学工学系大学院で、学部時代に引き続き電池の研究に従事。PS-PVDナノSi:Sn粒子を用いたLIB負極複合構造化の研究を行っている。大学では体育会バスケットボール部に所属。怪我がちな選手生活を通し、様々な種類のトレーニングを学ぶ。東原兄弟の肉体・イケメン担当として、トレーニングに関する情報発信や、自分の肉体成長記録を発信しつつ大会を目指す。

Twitter: https://twitter.com/toharabrothers

Blog: https://ameblo.jp/toharas-musclelifestyle/

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