thumbnail4 100x100 - 【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第4回】「科学的」を謳う広告がなぜ信用できないのか

このエントリーをはてなブックマークに追加 2018年6月11日 | タイムライン, 東原兄弟, 筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解 |

【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第4回】「科学的」を謳う広告がなぜ信用できないのか

001 224 - 【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第4回】「科学的」を謳う広告がなぜ信用できないのか

 前回の記事では

・科学とは、たくさんの論文、それもポジティブなデータとネガティブなデータ両方の積み重ねを総合的に解釈して、“いまのところの事実”を作り上げていくものである

・科学は、発表論文の内容の再現性の低さという問題を抱えている

・科学には、ポジティブな結果ばかり発表されネガティブなデータは闇に葬られがちであるという「出版バイアス」がある

 

という話をしました。今回はそれらを踏まえて、“科学的”を根拠に商品を売る記事がなぜ信用できないのかという話をしようと思います。

 

 まず前回の記事でも述べた通り、サプリの多くには「こういった条件下では効果があったけど、この条件では効果がなかった」といったように、効いたというポジティブな研究結果と効かなかったというネガティブな研究結果があります。ここでポイントなのは、会社というのは自社の製品=サプリを売りたいので、製品の効能をサポートするような論文を探して宣伝に利用するということです。「うちの製品は実は効かない」などといった論文はほぼ100%提示してきません。つまり、効いたという研究結果と効かないという研究結果が両方あるのに、効いたというものだけを選んでくるのです。

 

論文を引用しながら「もっともらしい記事」を作ることは容易である

 例えば、前回の記事で紹介した、HMBの論文を引用してこのような記事を書くことができます。

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 HMBとは、筋合成を最も刺激するアミノ酸であるロイシンが体内で代謝されてできる物質です。HMBは筋肉合成を刺激、また筋肉分解を抑制する働きを持つ物質なのですが、残念ながら体内ではロイシンのうちわずか5%しかHMBに変換されません。そこでHMBを直接摂取し、筋肉へ届けることにより最大の筋肥大効果を促すのです!

 理論的にも筋肉をつけたいあなたに必要であることがわかるHMB、実はちゃんと科学的にもその効果が証明されています。

 まず2013年のこの研究により、HMBが筋分解の抑制に効くこと、またトレーニング後の疲労回復に効いていることが示されています。

β-Hydroxy-β-methylbutyrate free acid reduces markers of exercise-induced muscle damage and improves recovery in resistance-trained men.

 

 また2014年の研究では、約3ヶ月にわたりHMBを摂取してトレーニングをしたグループと、摂取しないで同じトレーニングをしたグループで筋肥大が比較されました。

The effects of 12 weeks of beta-hydroxy-beta-methylbutyrate free acid supplementation on muscle mass, strength, and power in resistance-trained individuals: a randomized, double-blind, placebo-controlled study.

 

 なんと結果として、HMBありのグループは摂取しなかったグループに比べて+5kgもの筋肉量増加が達成できたのです。

 似たような結果はその後発表された別の論文でも示されています。

Interaction of Beta-Hydroxy-Beta-Methylbutyrate Free Acid and Adenosine Triphosphate on Muscle Mass, Strength, and Power in Resistance Trained Individuals.

 

 このように、科学的にもHMBはすさまじい効果を筋肥大にもたらすことが証明されているのです。まさに筋トレをするあなたに必要なサプリであると言えます。

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 非常にもっともらしいですね。3本も科学論文を引用してHMBの効果を“証明”しています。このように結果がポジティブな論文だけを集めれば、「もう効くこと間違い無し! 買わなきゃ損!」といった内容の記事を書くことは簡単なのです。

 

 しかし、もちろんポジティブな論文とネガティブな論文を両方集めてHMBをこき下ろすこともできます。

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 HMBとは、筋合成を最も刺激するアミノ酸であるロイシンが体内で代謝されてできる物質です。HMBは筋肉合成を刺激、また筋肉分解を抑制する働きを持つと言われているのですが、その効果には疑問が持たれています。

 

 HMBが筋肉増強剤並の筋肥大効果を示すという論文が、2013-2016年にかけて同じ研究グループから数本発表されました。

 

β-Hydroxy-β-methylbutyrate free acid reduces markers of exercise-induced muscle damage and improves recovery in resistance-trained men.

 

The effects of 12 weeks of beta-hydroxy-beta-methylbutyrate free acid supplementation on muscle mass, strength, and power in resistance-trained individuals: a randomized, double-blind, placebo-controlled study.

 

Interaction of Beta-Hydroxy-Beta-Methylbutyrate Free Acid and Adenosine Triphosphate on Muscle Mass, Strength, and Power in Resistance Trained Individuals.

 

 世間はHMBの効果の高さに驚きましたが、すぐにこれらの論文に疑問を呈するコメント記事が発表されました。

Changes in body composition and performance with supplemental HMB-FA+ATP.

Discrepancies in publications related to HMB-FA and ATP supplementation.

 

 また、このHMBは効果が絶大という論文を発表しているグループが企業から資金を得ている(利益相反がある)のではないか、という話も出ています。

 

 さらに、昔から今まで発表されたHMBに関する論文を全部まとめて統計的に解析し、HMBは本当に効果があるのかを調べた解析論文が2009年と2017年に発表されています。これら二本の論文では、HMBの摂取は筋力・筋肉量増加にほとんど効果がないと結論づけられています。また、特にアスリートにおいては効果がなかったとのことです。筋肉ダメージへの効果も不透明という結論に至っています。

 

Effects of beta-hydroxy-beta-methylbutyrate supplementation during resistance training on strength, body composition, and muscle damage in trained and untrained young men: a meta-analysis.

 

Effects of beta-hydroxy-beta-methylbutyrate supplementation on strength and body composition in trained and competitive athletes: A meta-analysis of randomized controlled trials

 

 つまり、HMBは幾つかの限られた研究グループから効くという論文が出ているが、それらの論文の結果に疑問が呈されており、また今昔様々な論文を総合すると効果は期待できないという結果が示されているのです。

 それでもあなたは高いHMBにお金を使いますか?

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 このようにHMBの購買意欲を下げるような記事を、論文を引用することで書くこともできます。ですが、もちろんHMBを売りたい会社はこのような記事を書くことはありません。

 

 もう一つ簡単な例を出しましょう。BCAAが筋タンパク質合成に効くという宣伝をしたいのであれば

 

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 トレーニングをすると筋肉が壊され、「回復→超回復」を経て、前よりも強くなっていきます。この「回復→超回復」のときには筋肉のタンパク質が合成されていくわけですが、BCAAを摂取していると、このプロセスが強化されるのです。つまり筋肉の合成を刺激し、回復を早め、超回復をより効率的に引き起こすことができるようになるのです。実際に、BCAAの摂取が筋肉合成を刺激するということが実験によって示されています。

 

Branched-Chain Amino Acid Ingestion Stimulates Muscle Myofibrillar Protein Synthesis following Resistance Exercise in Humans

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といったように論文を引用しながら「科学的にも証明されている!」と言うことができます。ですが、同時に“全く同じ論文を引用しながら”、

 

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 トレーニングをすると筋肉が壊され、「回復→超回復」を経て、前よりも強くなっていきます。この「回復→超回復」のときには筋肉のタンパク質が合成されていきます。BCAAの摂取がこのプロセスを活性化するという説があります。 実際に、BCAAが筋合成を刺激するという研究結果が示されましたが、その効果はEAA・プロテインに比べるとかなり低いものであり、あまり効率の良いものとはいえません。

Branched-Chain Amino Acid Ingestion Stimulates Muscle Myofibrillar Protein Synthesis following Resistance Exercise in Humans

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というようにBCAAは特に高い効果があるわけでもなさそうという“科学的な証明”もできるのです(どちらもこの論文の解釈としては正しいです)。しかし前述の通り、商品を売ることを目的にしている宣伝の場合はわざわざ販売上不利になる論文を引用したり、論文を販売上不利になるように解釈したりすることはまずありません。

 

 このように、「このサプリ効果あるよ! 科学的にも証明されているよ! ほら論文!」といった宣伝をすることはとても簡単なのです。

 

■“エビデンス”という言葉の意味

 これに関連して、“エビデンス”という言葉の解釈についても少し言及したいと思います。エビデンスというのは、直訳するとevidence = 証拠、となり、「確固たる根拠」といったイメージを持ってしまいがちです。

 

 しかし、このエビデンスの捉え方は間違いです。エビデンスというのは主に学術論文のことを指します。つまり、前回と今回の記事で述べたように「エビデンスがあるから正しい」ということはありえないのです。エビデンスをもとに何かを判断する際は、「多くのエビデンスを総合して考慮した結果、こうなった」となるべきものなのです。よって、“科学的に証明されている”という宣伝文句と同じように、“エビデンスがしっかりある”といった宣伝文句を見つけた場合にもこの記事で述べたことを注意して読まなければなりません。

 

 広告やサプリ会社のサイトでよく見かける“科学的に証明されている”・“エビデンス”などといった言葉の意味、わかっていただけましたでしょうか。広告や宣伝記事などに接する際、これが頭に入っていれば、書いてある情報をすべて鵜呑みにすることもないと思います。今後サプリを購入する際に、このような事実を踏まえた上でよく考えていただけるようになれば幸いです。

 

 次回はこれまでの記事を踏まえて「どのようにすれば無駄なサプリにお金を使わずに済むのか」ということを書いていきます。

 

次回予告:【筋トレに使える科学的根拠:第5回】どのようにすれば無駄なサプリにお金を使わずに済むのか

 

(文・東原兄弟)

【筋トレに使える“科学的根拠”の正しい理解:第3回】「科学」はみなさんが思っているほど完璧ではない

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東原兄弟さんのプロフィール:

東原兄弟・兄(左)

 サイエンスと筋トレをこよなく愛する博士候補。東京大学農学部時代に生化学・生物物理・代謝・食のサイエンスを学び、卒業後渡米。ロックフェラー大学の博士課程に在籍中。
自律神経による心拍数制御の分子メカニズムを生物物理・生化学・細胞生物学的視点から研究。大学では体育会ハンドボール部に所属し、トレーニングの素晴らしさに目覚める。以降、サイエンスと筋トレを人生の柱に生きる。東原兄弟の頭脳担当として、栄養・生化学・サプリなどの情報を科学者ならではの視点から発信中。

 

東原兄弟・弟(右)

 筋トレとサイエンスをこよなく愛する修士候補。東京大学工学系大学院で、学部時代に引き続き電池の研究に従事。PS-PVDナノSi:Sn粒子を用いたLIB負極複合構造化の研究を行っている。大学では体育会バスケットボール部に所属。怪我がちな選手生活を通し、様々な種類のトレーニングを学ぶ。東原兄弟の肉体・イケメン担当として、トレーニングに関する情報発信や、自分の肉体成長記録を発信しつつ大会を目指す。

Twitter: https://twitter.com/toharabrothers

Blog: https://ameblo.jp/toharas-musclelifestyle/

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