【特別コラム・舟橋 立二さん】「筋肉が硬い(固い)」とよく言いますが、それは悪いことなのでしょうか?
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舟橋 立二さんのプロフィール:
(CSCS, JATI-ATI, FA Medical Level2)
日本に帰国し、日本大学バスケットボール男子・女子部のヘッド・トレーナーとして日本一(男子のみ)を経験する。
その後、三菱重工相模原ラグビー部にて5年間ヘッド・トレーナーを務め、
現在はプロバスケットボールチーム東京エクセレンスのメディカル・スーパーバイザーとなり、
2013-2014シーズンで優勝に貢献する。
また玉川大学サッカー部のストレングスコーチとしても活動する。
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筋肉の硬さとパフォーマンス〜Muscle Stiffness
「筋肉が硬い(固い)」とよく言いますが、それは悪いことなのでしょうか?
そして硬いとはどういったことなのでしょうか?
その問題のキーワードは、『筋紡錘(きんぼうすい)』です。
この組織が大きく関わっています。
出典:http://jakobkajaer.jugem.jp/
【引用】:筋紡錘(きんぼうすい)とは=骨格筋中にある紡錘形の微小な感覚器。
筋肉の収縮を感知して手足の位置・運動・重量・抵抗の感覚を起こす。
動物の姿勢保持や細かい運動に重要。
http://www.weblio.jp/content/筋紡錘(Weblio 辞書)
《筋紡錘の3つ目の役割》
筋紡錘は、骨格筋の筋繊維と平行に配置された受容器で、神経機能と運動機能を持っています。
それは、まず2つの変化に反応します。
役割1:筋肉の長さの変化
役割2:筋肉の力の変化
この変化が求心性神経を通って中枢神経に伝わり、
『関節の位置がどこなのか』
『どの位置に動かしているのか』
『どのくらいの早さで動かしているのか』
『どのくらいの力が使われているのか』などを認識します。
役割3:筋肉の硬さの調整や抑制
更に、もう一つ重要な役割があります。
それは、筋肉の硬さの調整や抑制に関与しています。
《筋肉の硬さは悪いやつ!?》
ネガティブ=“動きの制限”や“機能の低下”
ポジティブ=”筋力やサポートを与えるためのもの”
硬さというとネガティブなイメージを持たれる方が多いことでしょう。
筋の硬さは、“動きの制限”や“機能の低下”を引き起こすと考えるかと思います。
その一方で、生体力学的には、その硬さは、
”筋力やサポートを与えるためのもの”と説明されています。
生体力学的な硬さ(Stiffness)とは、『変位力への抵抗としての受動的また能動的筋緊張』のことです。
《筋肉の硬さを成す2つの構成》
【予備知識】
外在筋:主動筋で、意識のもとで動く筋肉
内在筋:関節を安定させる筋肉で、無意識のもとで動く筋肉
次に筋の硬さは以下の2つから構成についてお話しします。
・ 内在筋の硬さ(intrinsic muscle stiffness)
・ 反射による硬さ(reflex mediated stiffness)
■ 構成1:内在筋の硬さ(ネガティブ=“動きの制限”や“機能の低下”)
まずこれは、筋肉の粘弾性性質とアクチン-ミオシ・クロスブリッジに依存され、
筋肥大やストレングストレーニングによって影響を受けます。
これによる硬さは、比較的能動的で動きに対するダイナミックな反応を生みません。
■構成2: 反射による硬さ(ポジティブ=”筋力やサポートを与えるためのもの”)
これは、α運動ニューロンプールの興奮性によって決まり、筋の反射的自動起動を引き起こします。
姿勢の変位に対してダイナミックな反応を起こすということです。
例えば、立位でお辞儀をした時には、屈曲方向に負荷(重力)がかかるので、
脊椎のバランスを取る為に「自然」に背中の後背部の筋肉が活動します。
その時には、筋肉は収縮するので硬くなります。
これが起こらないとバランスを崩してお辞儀が出来ません。
つまり、この「硬さ」は必要な硬さです。
《硬さを見る観点》
筋の硬さを見るときには、何を見るかによって変わります。(ネガティブにもポジティブにも)
■1:内在筋の硬さ(改善=ストレッチなどでアプローチ)
『内在筋の硬さ』は、それだけではダイナミックな動きを作らず運動制限を起こす可能性があります。
ですので、そこへはストレッチなどでアプローチすることが大事でしょう。
■2:反射による硬さ(怪我をしないためにも必要)
しかし、『反射による硬さ』においては、普段生活や運動する際には、
人間が効率よく動いたり、怪我をしないためにも必要になります。
筋パワーなどにはベースと成る筋肥大メニューも必要かと思いますが、
それだけで終わってしまうと筋肉の硬さ(悪い方の)だけが残ってしまい、
パフォーマンスを下げる可能性があります。
パフォーマンス向上には、更にその筋肉を反射により発揮できる能力を身につけなければいけません。
つまり必要なときに“ぐっ”と筋肉が硬くなることが必要です。
それが出来ないと『不制御動作』(UCMについては以前の記事を参考にしてください)を起こすことになるのです。
ウェイトトレーニングの賛否は色々とありますが、私は必要と感じます。
ただ、それを間違った方法で行うとパフォーマンス低下を起こし、怪我をさせることとなります。
ただ単に筋肉を大きく、硬くすればいいのではないことが、上記のことからもわかるかと思います。
「反射による硬さ」を必要なときに起こす、このタイミングが大事です。
その事についてのヒントは、また次回・・・。
■舟橋さんへのQ&A
友人(質問):と、いうことは反射による硬さは各々の感覚任せ(経験?)的な部分があって、内在筋の柔軟性はストレッチとかで向上できるということ?
舟橋さん(回答):内在筋は姿勢維持などで無意識で働く筋肉(身体の反応で起こる)。
これが正しいタイミングで起ること(反射による硬さ)がパフォーマンス向上に繋がるので、
これはトレーニング(コーディネーショントレーニングとか色々)などで鍛えられるよ。
つまり最近の子は、外で遊ばなくなって運動能力が下がっていると言われるのは、
本来走り回ったり、ジャングルジムをのぼったりなどなどすること事態がコーディネーショントレーニングとなり、その辺のタイミングやバランス感覚などを自然と身に付くから、特に必要なかったんだけど、
そういうことをする機会が減った現代は、その「反射による硬さ」が衰えているということ。
ストレッチで向上っていうのがわかりにくい表現だけど、内在筋は無意識下でおこるようにするためには、
筋肉自体の弾力性も必要なので、ストレッチなどで本来持っている弾力性を戻してあげると、
外で遊んだりするとより効率的に鍛えられる。
こんな感じでわかるかな??
参考文献:
Johansson, H., Sjolander, P., 1991. Receptors in the knee joint ligaments and their role in the biomechanics of the joint.
Tortora, G., Principles of anatomy and physiology, 1996. HarperCollins
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