【騎手の世界】騎手に必要な筋肉。そして女性騎手が苦悩した筋トレ問題とは

00195 - 【騎手の世界】騎手に必要な筋肉。そして女性騎手が苦悩した筋トレ問題とは

(左:鈴木 久美子さん 右:山本 泉さん)

  ■2014年9月30日

(場所:東京都 墨田区 某所)

 

 美しい馬、競馬場の景色と歓声。そして鼻差で勝敗が決まることもあるシビアなレース。

そのレース場で己の身体と馬をシンクロさせるスポーツがあり選手がいる。それは競馬の騎手である。

多くのスポーツは男女で戦うフィールドは分けられていく。ボクシング、サッカー、野球、バスケットボールなど。

理由は男性の方がホルモン上、同じトレーニング量に対し筋肉が付きやすく有利になっていると考えられている為だ。

 

 しかし競馬という世界では男性も女性も関係なく同じレース場で戦うというルールになっている。

差は出にくい世界と言われているがそれは本当なのだろうか、そしていったいなぜなのか。

しかしここではその理由は重要ではない、今現実にそうである以上、勝つ方法を考えていくのがプロの世界である。

そこで女性騎手はその中で何を考えいったいどのような筋肉を使い、どのような筋トレをしているだろうか。

 

女性騎手の世界における筋トレ事情について話しを伺うべく、

筋肉バカは元女性騎手に取材を申し入れた。

 

 取材に応じて頂いたのは、

元騎手である鈴木久美子さん(元船橋競馬場に在籍)と山本泉さん(元大井競馬場に在籍)。

 

本日は宜しくお願い致します。

 

【競馬学校時代】

 ■競馬学校について

 まず競馬学校について話しを伺った。競馬学校はその年の選ばれた者だけが入学することができる。

男性が100%の年も当然あり。男女の枠などは一切存在しないとのこと。

体育会系バリバリの日程で毎年3~4人は脱落するという。

1クラス15~18名。

 

■学生時代の授業でのトレーニングについて

・天井から綱がぶらさがっており手だけで上る種目

・腹筋

・腕立て

・空気いす

・馬とび

・シャトルラン

・ダッシュ

・手押し車

など

 

 それぞれの項目や回数は男女関係なく同じ。綱上がり以外は数百回レベルで行われる。

全員が規定時間内に終わらないと馬の世話や食事の時間に影響が出るため、必死に回数をクリアしていくという。

 

■学生時代のスケジュール

【午前】

5時:起床

5時 ~7時半:朝の運動と馬小屋の清掃、馬体管理。

7時半~8時半:自らの体重をチェックし、朝食。

8時半:点呼(集合)

8時半~12時:朝の馬乗り訓練

【午後】

12時~13時:昼食と休憩

13時~15時:座学

15時~17時:馬の手入れ

17時~18時:夕食と休憩

19時~:馬小屋の管理

20時~:

夜食(みかんやりんごなど)

自主トレ(筋トレやランニングなど)

21時:消灯

 

※競馬学校時代の当時の生活の記憶を伺わせ頂きました。

現在のタイムスケジュール等は直接、競馬学校へお問い合わせください。

 

■学生時代の生活と筋肉への意識について

 座学の時はひたすらに睡魔との戦いとなり、

上手く、精神的も体力的にリラックスさせることが1日を乗り切る為の重要なテクニックだったという。(山本さん)

 

騎手学校での成績はもちろん卒業するときには48キロ以下というリミットを守らなくてはいけない。

もちろん、自己管理能力でその体重のリミットを守ることができなければ退学となってしまう。

 

その時に意識していた事はその後重要となる筋トレより、純粋な体重の事だったという。(鈴木さん)

もちろん夜に独学で筋トレなどはするもの、身体作りや食事の理論についてはそれほど重要視していなかった。

騎手学校での成績をキチッと出し卒業しプロになる事を最重要としての生活に没頭していた学生時代。

 


 

【プロ時代】

■プロ時代では体重が落ちることに苦悩(鈴木さん)

 しかし鈴木さんはプロになってから生活はよりハードになり、体重が落ちてしまう。

増量するための筋トレ、食事を含めた身体作りの必要性に直面し筋トレについて模索していった。

男性騎手と同じようにトレーニングしても上手く筋肉が付かない、つまり体重も増えない問題が発生したのだ。

 

■プロ時代では減量方法を必要としていた(山本さん)

 一方、山本さんは鈴木さんと対象的に、騎手としてのリミットへ減量をする必要があった。

理由としては筋肉が付きやすかったためであり、肩や首周り(僧帽筋)が非常に発達していたという。

肩幅がガッシリしすぎて工事現場の標識みたいと言われたこともありました。と山本さんは爽やかに笑っていた。

「私の場合は水泳はやらず、走ったりして体重を絞る事を重視していました。」(山本さん)

 

体重問題に関しては対極的な2人である、当時の筋トレや問題について鈴木さんにさらに教えて頂いた。

 

 ■体重が足りない騎手は重りのプレートを身に着ける

 体重は少なければ馬の負担が少なくて早く走れて良いのではと思っていたところ、驚くことに、騎手は体重が少なすぎてもいけない。

体重が足りない場合、レースを公平に保つために足りないウェイト(重りのプレート)を身につけてレースに出場しなければいけないルール。

競馬界では常識ではあるものの、一般的にはそのルールは知らない人も多いはず。

 

具体的にはジャケットを着て足りない数キロを重りのプレートを入れて補う。

これはまるで鎧を身に着けているような、重いランドセルを背負ったようなものである。

 

そしてこの状態は騎手として身体を動かしづらくなるばかりか、純粋に何もつけないよりも体力は消耗しやすい。

 

※競馬の検量に関して

なまりをつけるタイプは2種類あります。通常は、なまりを入れられるバンドや、ベルトがあり腰につけます。

しかしそれでも重量を補いきれないケースでは、ベスト型のなまりチョッキなどを着ていきます。

観客からは分からないよう勝負服でデザインは統一されています。

 

 ■筋トレしても男性のように上手く筋肉が増えない

 鈴木さんは学生時代には想像していなかった筋肉で体重を増やすという問題に直面した。

自然体重を上げなければ、あの重りを身につける状態でシビアなレースで結果を出さなければいけない。

プロ2年目から自分に合うスポーツジムやトレーナーを探していく日々が始まった。

脂肪より重い筋肉をつけて身体のパフォーマンスを上げながら理想体重へ近づけたい。

食事の改善と筋トレの改善なのは当然分かっていた。

 

 しかし当時は運動量が多く食べてもトレーニングをしても中々体重が増えなかった。

独学でも調べ、プロテインを飲んだりボディビルの本を参考にして筋トレをした事もあったという。

ボディビルと騎手では必要な筋肉量や種類が違うために

どういったトレーニングで筋肉をつけるべきなのか、ジムに行くも良い結果が出ず模索が続いた。

筋肉量の増加に関しては女性であることや、消化吸収率など体質的な問題もあったかもしれない。

 

 しかしプロの勝負の世界ではそれは関係ないシビアさがある。速筋だけではなく遅筋も必要な職業。

こうして鈴木さんは筋トレや体重維持の方法について試行錯誤しながらレースで戦っていた。

 

■プロ時代行っていた主なトレーニングについて(鈴木さん)

・有料ジムでの筋トレ

・水泳

・ランニング

・ストレッチ(毎日)

・拳立て(腕立ての一種であり拳で行う難易度が高い種目)

 


 

■足りない部分はあらゆる技術でカバー(鈴木さん)

 騎手は手綱を掴む用に手袋をはめるのが一般的なのだが、

プロの初期は手袋をはめずにいたというエピソードを話してくれた。

 

” 持った手綱に血が通う ”

 

学生時、調教師に教わったこの教えを大切にし、自らの手、そして手綱のわずかな変化や感覚を逃したくなかったのだという。

 「今の技術で作られた手袋は問題ないくらい良質なのは分かっていたけれども、あえてしないスタイルで行きたかった。」(鈴木さん)

 

しかし数多くの調教とレースをこなしていくためには、手の皮が耐え切れない。

学生時代は全く手袋をつけなかったがプロ2年目から手袋をはめることになっていったという。

これほどまで手の感覚を研ぎ澄ませる姿勢でレースに挑む事で、あらゆる勝機を掴む。

 

■騎手にとって特に必要な筋肉はどこですか?

 最後にこの質問を投げかけると、全身とのこと。

まず馬でレースする時に発生する衝撃は、騎手が常につま先で馬に乗る体制を維持しそこからジャンプし続けてその動きの中で体制をキープするようなものだという。

専門用語で馬からの衝撃を受け流すために全身で「反動を抜く」という技術がありこれが圧倒的に筋肉を疲労させるようだ。

目の前でデモンストレーションして頂いたのだが、これは素人では絶対に真似できない高等技術であった。

これはもう腹筋から太ももから全身の筋肉が必要だと言える。

 

 さらに馬がストレートに走れば簡単だが、馬は左や右に蛇行して走っていく。

それをコントロールして、まっすぐ走らせるようにするには両足から押さえる筋力が必要となる。

また、「追う」や「押さえ込む」など馬の頭を綱でコントロールするため凄まじく腕力を必要とするケース。

とにかく、話しを伺う限りもう全身の筋肉をたくみに使いこなして馬をコントロールしていくようだ。

 

筋肉、そして筋トレの悩みは尽きない・・・。

 

本日はありがとうございました。

 

女性騎手の筋トレや経験した苦悩について話しをしてくれた鈴木久美子さんと山本泉さんに深々とお礼をし、筋肉バカは出走馬のごとく勢いよく飛び出し競馬場へと向かった。

 

■鈴木さん、山本さんの略歴

【鈴木 久美子さん】

1995年4月 地方競馬 南関東船橋所属騎手としてデビュー

2001年3月 引退

2003年 渡仏 フランスギャロの調教専門騎手となる

2004年 フランスギャロ 騎手免許を取得 ENE フランス国立馬術学校に短期入学

2005年 chndi cheval 全仏障害者乗馬連盟のへ

 同年 初級、中級の認定資格取得

2006年 上級取得

2008年 上記団体より、日本での名称の使用と活動を認められ帰国。都内高校から大検受験、合格して一年次で卒業

 

【山本 泉さん】

1995年4月 地方競馬 大井競馬場所属騎手としてデビュー

1996年5月 初勝利

1999年5月より 新潟競馬場に期間限定移籍、女性ジョッキーJRA重賞騎乗と話題になる

1999年9月 引退

 

 

(文:遠藤大次郎  写真:筋肉バカドットコム)

 

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