【和太鼓の会】鼓由「姿勢も正しながら、力強く、筋を通して日本人らしく」
■2015年8月15日(土曜日12:00~)
和太鼓の会 『鼓由』(こゆう)
(場所:千葉県浦安市猫実1丁目1−2 浦安市文化会館)
かつて、日本に生まれ育てば誰もが同じように日本の文化を知り体験していた時代があった。しかし現代ではそのような事は少なくなっている。スポーツにしても遊びにしても食事にしても、多様化が進み様々な選択肢で溢れている社会になったからだ。
日本には古くから「和太鼓」という楽器の文化がある。実際に叩いた経験はなくとも、現代でもほとんどの人が知っているのではないだろうか。縄文時代には情報伝達の手段として利用され、現代も祭りや盆踊りなどで演奏の主役を張っている楽器である。和太鼓という楽器、そして演奏の技術はこの先も受け継がれるべき大切なものであると筋肉バカは考える。なぜなら筋肉的な理由がそこにあるからだ。あの大きく重い太鼓を黙々と叩き続ける漢の姿を思い浮かべて欲しい。月夜に照らされ背中で語る、無言の鍛え上げられた広背筋の姿を……。
そんなある日、 千葉県で和太鼓の演奏を控える団体がいるという貴重な情報を筋肉バカは偶然キャッチした。桴(ばち)と呼ばれる木の棒で太鼓を叩く筋肉の動きを熟知する彼らの世界を知るまたとないチャンスである。後日、取材を申し入れ、ウサイン・ボルトばりのスプリントで現地へと向かった。
浦安市文化会館へ到着。演奏日に向けてポスターが貼られている。
会場に入ると、静かな空気の中、太鼓やオブジェがセッティングされている。
話によると、明日、この場所で約2時間(休憩含む)の公演が行われるという。
(左から:吉田さん、富沢さん、志関さん、志賀さん)
『鼓由』。50名近い人数で活動している。和太鼓の団体としてすでに20年の歴史を持っているが、まだ若いチームとのこと。
吉田さんは小さい頃、祭りで太鼓の演奏に出会い、カッコいいと衝撃を受けて太鼓をはじめたそうだ。富沢さんは自身のおばあちゃんの誘いで小学生から始め、続けている。志関さんも小学生からはじめ、今はフィットネストレーナーとして働きながら太鼓を続けている。一番右端に立つ志賀さんは現在33歳。小学生からはじめ、演奏と『鼓由』の演出を担当しているという。みんな小学生の頃から太鼓を始めていたとは驚きだ。
「昔からこのあたり(千葉県の行徳や浦安)は太鼓の文化があります。ただ『鼓由』は新しいチームなので、まだ浦安のお祭りやイベントでは、なかなか叩かせてかせてもらえないです。盆太鼓という種類が強い所が多いのですが、うちは組太鼓というのをやっています。曲を自分たちで作るところが特徴です」(志賀さん)
(とても大きな太鼓。客席を背にしてこの太鼓を叩くことで、広背筋を惜しみなく見せ付ける事が可能となる)
20年の歴史がありながら、まだ団体としては若い部類に入るという。メンバーは子供から大人まで、年齢層は幅広いとのこと。志賀さん(33歳)は現在、演奏のメインを担当しながら演出も手がけており、『鼓由』のリーダー的な存在。だが一度、和太鼓から離れていたという。
「小学2~5年生までやっていたのですが、途中で一度やめてしまったんです。小さい頃は楽しくなかった。中学や高校と進むにつれ部活やバイト、勉強で精一杯だったんです。学生生活が終わり、落ち着いた20才頃、親がやっている太鼓のイベントを久しぶりに見たときに、昔はもっといい演奏だったのでは? と疑問に思ったのです。それと同時に、太鼓の魅力に気づき始めていました。親に太鼓について色々話をしたところ、じゃあお前がやりなよ、と言われ、また太鼓をやりだしました(笑)」(志賀さん)
明るく経緯を話してくれる志賀さん。そんな取材中、筋肉バカは志賀さんの上腕二頭筋のバルクに気づいてしまった。
腕をまくっていただく。これが……太鼓を叩く事で身につけられる筋肉。和太鼓筋肉である。
(演奏前日のため、身体はキッチリ仕上がっている志賀さん)
土日と月曜の夜が練習のサイクル。週3日、一年間を通して練習しているとのこと。上腕二頭筋の写真を撮らせてもらいながら、太鼓の魅力について話を伺った。
「太鼓の魅力というと、言葉で説明するのは難しいのですが、叩いていて、メンバー全員の音が一致したときは、オーッ! となります。その時はお客さんの反応も違う。自分の動きにキレがあるときも分かる。今日キテる! という時は凄く楽しい。身体が仕上がってないと、叩いても楽しくないですね」(志賀さん)
「あとは……日本人だからこそ、日本人くさいからこそ、俺はやっているんだと思います。昔の日本人ってこういうのだな、というイメージがあるじゃないですか、みんな必ず。それがこの世界は如実に分かりやすく出ているかなと思う。姿勢も正しながら、力強く、筋を通して日本人らしく、古臭くたっていいじゃないか、そういうところが好き。自分の性格に合っているなと思います。公演としてはカッコつけるのは当たり前だけれども、色気づかなくていい。太鼓は渋い。世の中には色んな楽しいことがあるけど、太鼓にはそんな別な魅力があるんだと思います」(志賀さん)
公演について尋ねると、2部構成となっており、1部は和太鼓の世界、2部は演目としての主旨がありストーリー仕立てになっているとのこと。舞台を観に来る感覚で来てもらっても楽しめるかもしれないとのことだ。 『鼓由』は毎年、無料公演をしているのだが、一般的には公演は有料である事が多いという(2500円前後が多いそうだ)。無料なのは、太鼓の魅力をもっと多くの人に知ってもらうため。クオリティには自信があるので、和太鼓に興味がある方は、100%来て欲しい! と志賀さんは語ってくれた。広背筋の話も、と思ったのだが、それは言葉や写真ではなくライブで観るからこそ真の価値が分かるというもの。上腕二頭筋のそれとは違うのだ。
翌日、本番の公演(ライブ)を筋肉バカは観に行った。太鼓の音、躍動するライブの広背筋。取材させて頂いた4名を含む出場メンバー達が、男女関係なく、約2時間もの間太鼓を叩き続ける姿がそこにあった。脅威的なスタミナとスピード、そして緩急、調和。まさにイッツ筋肉スペシャルワールド。これが和太鼓の世界か……。すると暗闇の観客席から、静かにマダムの声が漏れる。「カ、カッコいい……。」確かに聞こえたその声を、筋肉バカは聞き逃さなかった。
(文・遠藤大次郎 写真・筋肉バカドットコム)