このエントリーをはてなブックマークに追加 2015年8月1日 | スポーツ, タイムライン, 取材, 筋肉バカドットコム, 遠藤大次郎 |

【野口 佳槻】馬を通じ筋肉も鍛える生活、3年間で自立する力を得る高校とは

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00024 【瀧本 修】一流も一般も「鼻呼吸」から直す。30年の経験から辿り着いた究極トレーニング

2015年5月25日(月曜日14:30~)

『東関東馬事高等学院』

(場所:千葉県八街市沖174番地)

 馬に乗ることは全身運動であり、筋肉が強化されるコンタクトスポーツである。そして、欧米では一般に知られているのだが、乗馬には「ホースセラピー」と呼ばれる効果もある。馬の体温・振動を感じること、乗馬時の視線の高さを体験すること、そして馬と意志を通じ合わせることによって、精神的・身体的な癒し効果や自信を回復させる効果を得られるのだ。馬に乗った経験がある人ならばその効果はすぐにピンとくるはずだが、まだ乗った事がない人や馬が身近ではない人にとってはイメージしにくいかもしれない。

 現代社会で運動といえば、自分の身体のみで行う個人運動やジムなどでマシンを使って行うものが多くなっており、人間以外の動物と触れ合い、意思を通じ合わせながら身体を動かすというような種類の運動は身近なものではなくなっている。
 乗馬とは何かを分かりやすく伝えるとすれば、犬や猫のようなペットとの触れ合いのように馬の温もりから癒しを得ながらも全身を動かすコンタクトスポーツ、という表現になるかもしれない。

 千葉県の八街市に東関東馬事高等学院という学校がある。全寮制で3年間馬と生活を共にしながら、高校卒業資格を取得する事や騎手を含む馬業界への就職を目指す事ができる。そこの生徒達は全身運動の筋肉を動かしているに違いないと気づいた筋肉バカは、その生活と学校を知るべくさっそく現地へと向かった。

 

■軽やかに馬を乗りこなす、主任の野口 佳槻さん

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 千葉県の八街駅から車で20分ほどの距離に東関東馬事高等学院はあった。

 出迎えてくれたのは、主任の野口 佳槻さん(以下、野口さん)。馬を軽やかに乗りこなす野口さんは、小学校時代から馬に乗り、中学・高校時代と数々の馬術大会で活躍。これまでにJRA競馬学校騎手課程、地方競馬教養センター(騎手課程)の合格者を送り出し10年間で33名の合格者が出ているとのこと。

 馬を通じた生活や、トレーニングなどについてお話を伺った。

 

■質の高い教育を維持する為、入学は毎年20名程度まで

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(馬に乗るリズムと身体のコツについて声をかけ熱心に教える先生)

 「学校は質の高い教育を維持する為に毎年の定員は20名程度にしています。入学希望者への筆記試験はありませんが、体験入学と学校見学をしてもらい、出願用紙の質問の回答で書類審査を行います。20名程度の定員に達したらその時点でその年の募集は終了してしまいます」(野口さん)

 

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 (歩く馬に乗りながら、丹念に練習を積む新入生)

 

■生徒達は、どのような思いで入学してくるのか

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  「高卒資格希望者は、野球もサッカーも好きで馬も好きなんです! という子もいるけれども、どちらかと言えば、たまたま競馬ゲームなどにはまって、馬の事だったら自分も(学校生活や将来の仕事を)上手く出来るかなと思って、という流れで学校に来た子が多い。普通の学校では合わなくなった子や、家にひきこもっていたような子などもいます」(野口さん)

 いわゆる普通の学校の教育システムでは充実感を感じる事ができず不登校になる生徒は全国に数多くいる。将来は誰もが仕事をし生活をしていかなければいけない中で、将来に向けどうすればいいのかという彼らの悩みは切実だ。そんな時にこの学校の存在を知り、高校卒業資格取得と馬業界への就職のため、そして充実した青春を送るために、この学校への転校や入学を決めるという人は多いのだという。

 

  ■社会人基礎力をシッカリと身に着ける必要がある

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  「その子その子の個性というのを引き出してあげて、社会人基礎力をシッカリと身に着ける必要がある。でも今の一般学校の教育体系だとフォローしきれない。生徒は20歳になったときには、自立して社会にデビューしていく。馬という教材を通じて、社会人基礎力のある生徒を作っていきたい。馬が好きで馬の世界を希望すればその世界で働くこともできる。仕事は大変な面があるけれど、好きな事であれば頑張れるよね。と生徒に話しています」(野口さん)

 

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(トレーニングによる筋疲労で体制を崩す嬉しそうな生徒達)

 「今の教育はゆとり世代で、みんなでやっていくという流れがある。しかし社会では競争で勝っていく必要がある。競馬も順位づけされている。だから学校内でもすべてランキングにしています。馬も勝てなくなれば食用の肥育馬になってしまう厳しい世界。馬という命を預かっているということ。馬主さんからの貴重な財産でもある競走馬を預かっているという大きな責任もある。それらを理解ししっかりと生活していければ、卒業後、馬の世界でなくても通用します」(野口さん)

 出会って早々、社会の中でシッカリと生きていける大人になるための力を身に着けてほしいという野口さんの情熱が猛烈に伝わってくる。

 

■足腰のトレーニング風景

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 「1時間くらいこのままで体勢を維持できるよね~という感じでリラックスしな~、楽勝だよね~」と野口さんが軽やかにアドバイスし、腰を痛めない姿勢など、手で力をかけ姿勢のポイントを教える。

 1時間て……、そんな無茶ですわ! と言いながらも必死に頑張る生徒達。コミュニケーションをとり、楽しみながらトレーニングを重ねている日常の様子が分かる。

 

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 生徒達がトレーニングする姿を見つめる野口さん。その目は真剣である。この後、この姿勢で後ろ方向に歩き、前進を繰り返していくのだがご覧の通り足元は砂地。足や関節が痛ければ無理をさせないなど、ヒアリングもごく自然に行われていた。

 

■馬の世界で働かなくても、3年間イキイキと過ごして欲しい

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  「たとえ将来馬の世界で働くことにならなくても、3年間イキイキと学生生活を過ごして欲しい。今の学校教育は生徒と先生が接する事のすべてを勉強ベースにしてしまっている。ここでは、今日、馬どうだった? などと、しゃべるのが苦手な子にもどんどん聞いていく。馬を通じて積極的に先生が話し接していく。生徒と先生で、馬の管理を通じての交換日記もしているのですが、その内容をもとに、こうだったね、ああだったね、と話す。ちょっと日記の内容が薄くなってきたのを気づいたら、何かちょっと悩んでいるんだろうな、今上手くいかないんだ、などということが分かる。高校生も、厩務員や競走馬の仕事を本格的にめざす専門学院生も、たとえ会話が苦手でも文字でのやりとりなども取り入れてコミュニケーションをしっかりおこなっていきます」(野口さん)

 

■馬は力ではなく、バランスの移動で動かす

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 野口さんに馬に乗るために必要な筋肉やコツについて伺った。

 「馬は力ではなく、バランスの移動で動かしていきます。ふくらはぎで挟んで、押し出す。膝を開いて股関節の力、お尻周りの力とバランスで、馬を走らせていきます。バランスはボールに乗るのと同じようなものですね。腹筋も鍛えられますが、はじめは内腿が筋肉痛になります」(野口さん)

 

■馬によって性格もリズムも違う、馬の気持ちを考える

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(馬の動きで身体に来る衝撃は違う、座った位置からの馬の姿)

 「走るところまではみんな出来ます。馬は自転車のようにかつては誰もが乗っていたものですから。しかし乗り方が上手くても、最後は馬のハートを上手く汲み取ることができるか。そこが乗馬の面白さです。行けと合図をしても反応が鈍いときは、理由は何かを考えます。もちろんサボった時は叱らないといけないのですが、そうではなく、前方の人やモノを見て警戒して動かないのだろうか、とか、障害物としてまだ1度も飛んだ事がない高さだから動かないのだろうか、とか。もしそれで叱られたら馬も病んでしまいます」(野口さん)

 馬も人間と同じで、動きも性格もその時の気持ちも違う。他者の気持ちを考えることの大切さ、それを馬と接する事で養える。この経験が様々な人とのコミュニケーションでも力として発揮されるのではないだろうか。

 歩く動き、走る動き、スキップの動きなど、馬の動きによって人間の身体にかかる衝撃はそれぞれ違うという。実際に馬に乗せて頂き、歩きで発生する横揺れを体験させて頂いた。馬に乗ると視界が高くて気持ちがいい。そして歩いた時は思ったより横にかなり揺れ腹筋も足腰もバランス感覚も鍛えられる事を実感した。

【動きと揺れ】

・歩く=横揺れ

・走る=縦揺れ

・スキップ=波打つような揺れ

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(馬の胴体の様子)

 馬によってそのリズムが違う為、一度コツを覚えたらどの馬も完璧に乗り越せられるというものではないという部分が乗馬の面白さです、と野口さん。

 

■生徒は担当の馬を持ち、責任を持って世話をしている

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 学校の横にある厩舎では馬を洗ったり、馬の小屋を綺麗にしたりしている。生徒は担当の馬を持ち、毎日、馬の様子などを日誌として先生に報告しているとのこと。体温を計ったりハンドクリームのように蹄(ひずめ)に油を塗り手入れしながら傷やケガが無いかをチェックしていく。蹄(ひずめ)の裏も丹念に洗っていく。これらの業務は夕方の5時に全て終わるそうだ。

 

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  学校には約100頭の馬がおり、もちろん1年間に病気や老衰で亡くなる馬もいる。命の大切さを知り、亡くなる馬を生徒達が送り出していく。その時は亡くなった馬への寄せ書きが自然と生徒の方から集まるという。

 

■ 世の中で求められる仕事のクオリティや筋力は学生生活の中で身につける

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 就職先となる牧場への就職を目指すには、しっかりとした馬の世話の経験がないと務まらない、と野口さんは言う。
 生徒は1月から3月の間は牧場へ行き研修をする。3ヶ所ほど牧場を回り実際の仕事のペースや現場ごとの違いなどを体験し、社会で活躍するイメージを持ち、基礎力を身に着けていくとのことだ。
 牧場側も卒業を控える生徒の性格や能力を知ることが出来る為、お互いにメリットがある。そして実際に就職活動となった時にも、条件面や環境などについて生徒も納得した良いマッチングが多々生まれるそうだ。
 筋肉バカとして気になる事が1つある。それは筋肉の鍛え方だ。生徒は牧場で通用するクオリティの高い筋力を確保しなければいけない。

 

■生活の中で自然に鍛えられていくトレーニングの数々

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【飼桶(かいおけ)】

 ここに麦などの馬の餌が入る。女の子でも餌が入った飼桶などを持てないと仕事にならない。水を入れるバケツも馬用なので大きく、水が入れば相当に重い。濡れたおがくずがはいったリヤカーを引いたりもする。牧場は広いので掃き掃除もスピードを上げていかないと仕事時間が伸びるので集中して行う。これらにより体力も筋力も自然と上がるのだ。当然のことながら、一仕事終えた後の食事は圧倒的に美味い。生徒はモリモリと成長していくとのことだ。

 

■分速110mのウォーキングマシンで足腰を鍛える

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  これはウォーキングマシンとのこと。元々は馬の歩行トレーニングとして開発されたもので、分速110mに設定されている。馬は1回あたり1時間歩くそうだが、なんとこのマシン、生徒達も自身のトレーニングで使うという。馬を引く時の歩行ペースを覚える為に、この砂の上を必死で歩くそうだ。馬の学校ならではのトレーニング設備に感動した。

 

 ■馬のエサ袋は1つ30kg

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 馬の餌袋も重く運ぶには筋力が必要になる。1つの重さが30kg。これが10トントラックで定期的に220個ほどやってくる。そして生徒全員で毎回、倉庫へと運ぶ。10トントラックが来ると生徒は「うあああ」と悲鳴に似た声を上げるそうだが、筋肉的には筋力アップの大イベントであり嬉しい悲鳴というもの。いかに自然に鍛えながらやっていくかを、野口さんは生徒達といつも一緒に考えているそうだ。

 

■真面目で下手でもいいから、上手くなろうという気持ちを持った子であるか

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「基本馬術からの就職。これらの指導には大きな手間と時間がかかります。馬も沢山必要ですしスタッフの情熱も必要。生徒が上手になっても就職できるパイプがなければいけない。就職として、これまで300人ほど業界に出していますが、業界との繋がりあるからこそ、いい人材しか出せない。たとえ技術が思うように伸びない子でもいいから、真面目で上手くなろうという気持ちを持った子であるか、そこを牧場さん側もシッカリ見ています」(野口さん)

 先生達は生徒をしっかりと社会や業界へ送り届ける為の仕事を多く抱えている。時には朝4時半に学校に来て、夜の9時くらいまで仕事をしている日もあるそうだ。馬と生活し楽しみながら身体を鍛えている生徒達。これほどの情熱ある先生達や仲間達と過ごす3年間は、きっとかけがえのない一生の財産になるだろう。野口さんにお礼を告げ、筋肉バカは地面に敷き詰められた砂をゆっくりと踏みしめながら東関東馬事高等学院を後にした。

 

 (文・遠藤大次郎 写真・筋肉バカドットコム)

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