予備パラシュートはなし! 最初の数秒で生死が決定!? 超難易度スカイダイビング「ベースジャンピング」

001295 - 予備パラシュートはなし! 最初の数秒で生死が決定!? 超難易度スカイダイビング「ベースジャンピング」

現在では安全性が高いスカイダイビング

しかし、その亜種には危険すぎるものが…!?

 スカイダイビングというスポーツはみなさんご存知の事だろう。航空機で上空へと向かい、1000~4000mから飛び降り、パラシュートを使って着地するというスポーツである。無論、パラシュートが開かなければほぼ間違いなく死亡するため、リスクが高いスポーツとしてのイメージが強いが、現在は、パラシュートをメインのものと非常用のものの2つ装備し、さらに、上級で意識を失った際の対策として、自動的に高度を検出し、パラシュートを開く装置を装着するなどの安全策がとられているため、実際に死亡事故が起きる可能性は、5万回に1回程度まで危険性は下がっていると言われている。

 

【ベースジャンプ】

 

 しかし、このスカイダイビングの亜種として、かなり危険なエクストリームスポーツが存在している。それがベースジャンプである。こちらは、スカイダイビングを、ビルやアンテナ塔、橋など建築物、あるいは断崖から飛び降りて行うというものだ(ベースジャンプのベースとはBuilding(建築物)、Antenna(アンテナ)、Span(橋梁)、Earth(自然崖など)の頭文字をとったものである)。

 

■創始者は映画制作者のカール・ボーニッシュという人物

 こうした建造物などからのダイブは、1914年にステファン・バニッチというスロバキア人が、 自身の発明したパラシュートの性能をアメリカ軍や特許庁に宣伝するため、ワシントンD.C.にあったビルの41階から降下した例など、もともと1900年代から映画やプロモーションなどの活動の一環として行われることが何度かあったが、それをスポーツとして一躍有名にしたのは、映画制作者のカール・ボーニッシュという人物であった。1978年、彼はカリフォルニア州にある巨大な花崗岩の一枚岩、エル・キャピタンからのダイブをを映像に収めた。この映像を切っ掛けとし、ベースジャンプは、プロモーションなどとは関係なく、レクリエーションスポーツとして行われるようになった。ボーニッシュはその後も、ベースジャンプを映画や雑誌を通じて世に発信し続けたが、1984年にノルウェーのトロルの壁と呼ばれる断崖からのダイビングで死亡した。しかし、創始者である彼が事故で死亡したにも関わらず、世のスカイダイビング愛好家たちの間でベースジャンプは広く根付いたのである。

 

■カール・ボーニッシュのドキュメンタリー「Sunshine Superman」

 

 予備パラシュート使用不可、建造物との接触の危険…

さらには法律の壁までがベースジャンプの障害となる!?

 では、通常のスカイダイビングに比べ、ベースジャンプは何故危険なのか。その理由の大きな一つに、着地点からの高度の差がある。スカイダイビングは通常、高度1000m以上のところから落下するのに比べて、ベースジャンプは高度300m程度のところから落下する。当然、地表までの到達時間が短くなるため、パラシュートを開くまでに迅速な行動をする必要があるのだ。さらに、通常のスカイダイビングであれば、ある程度の自由落下の時間があるために、空気抵抗により空中での姿勢が安定し、より安全にパラシュートを開くことができるが、ベースジャンプでは、その時間が短いため(300mの例であれば、およそ9秒程度で地表に到達する)に、姿勢を保つテクニックが必要となるうえ、建造物や崖が近くにあるため、パラシュートがそれに触れてしまえば大事故に繋がる危険性がある(ちなみに、通常のスカイダイビング用のパラシュートは、開いた際の減速での衝撃を和らげるために、ゆっくりと開くようになっているが、ベースジャンプ用のパラシュートは迅速に開かないといけないため、専用のパラシュートが用いられる)。

 

■予備のパラシュートを積んでも、トラブルの際に使う時間がない

 つまり、ダイブしてから、最初の数秒で安全にパラシュートが開ける姿勢を取る必要があり、それを失敗すれば死亡の危険性が非常に高いという恐ろしくテクニカルなジャンプを要求されるのである。そして、何よりも恐ろしいのは、飛んでいる時間が短く、予備のパラシュートを積んでも、トラブルの際に使う時間がないため、メインのパラシュートにトラブルがあった場合、ほぼ間違いなく死亡してしまうというリスクを背負っているのだ。そのため、スカイダイビングに比べより万全を期したメンテナンス、そしてジャンパー自体の高いテクニックが求められるのである。

 

■違法なベースジャンプが行われている現状

 また、世界各国の法律の壁もベースジャンプの大きな障害となっている。通常、建築物などからのジャンプはその所有者が許可を出すことを渋るため、ベースジャンパーたちの一部は、無許可で密かにそうした建物に侵入し、ベースジャンプを行ってしまっている。このことが、このスポーツ自体の評判を落としている部分があるのだ。もちろん、アイダホ州にあるペリンブリッジや、ノルウェーのリーセフィヨルド、フランスやスイスのアルプス山脈の一部など、ベースジャンプが許可されている場所も世界には多くある。だが一例を挙げれば、上述のカール・ボーニッシュが撮影し、ある意味でベースジャンプの聖地ともいえる、エル・キャピタンに関しては、この場所があるヨセミテ国立公園を管理する国立公園局が、1980年以降にすべてのベースジャンプを禁止しているが、未だに年間数百回に及ぶ違法なベースジャンプが行われているという。裏を返せば、このエクストリームスポーツがそれだけ独自の魅力に溢れているという事でもあるのかもしれないが、世間の印象としてはネガティブなものになってしまうのも仕方のない事だろう。

 

 上記の危険性や、違法なジャンプにより、ベースジャンプは、未だに危険を楽しむスタントとして認知されてこそいるものの、スポーツとして捉える人はいまだ少ないのが現状である。だが、近年においては、着地の正確さなどを競う公式の大会がマレーシアのペトロナスツインタワー、クアラルンプールタワーなど、様々な場所で行われるようになり、その高度な技術などに注目が集まり、着実にスポーツとしての市民権を得つつある。果たして、ベースジャンプはスカイダイビングと並ぶスポーツとしてこれから周知されることとなるのか。それとも、違法なジャンプや高い危険性と言うネガティブな側面により、あくまでもエクストリームスポーツとしての枠を出ずに終わるのか。今後を注目していきたい。

 

(文・阿左美 賢治)

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